して(読み)シテ

デジタル大辞泉 「して」の意味・読み・例文・類語

して[格助・接助・副助]

《動詞「する」の連用形接続助詞「て」から》
[格助]名詞、活用語の連体形、副詞・助詞などに付く。
動作をともにする人数・範囲を表す。「みんなして考えよう」
「もとより友とする人一人二人―行きけり」〈伊勢・九〉
動作をさせられる人を表す。「私をして言わしめれば、その説明では承服しかねる」
かぢ取り―ぬさたいまつらするに、幣のひむがしへ散れば」〈土佐
(多く「にして」の形で)動作の行われる時間・空間を表す。「三〇歳にして独立する」
「勝軍王と申す大王の前に―此をくらぶ」〈今昔・一・九〉
動作の手段・方法・材料などを表す。
「そこなりける岩に、およびの血―書きつけける」〈伊勢・二四〉
[接助]形容詞形容動詞、一部の助動詞の連用形に付く。上代では接尾語「み」にも付く。
上の事柄を受け、それと並ぶ事柄または推移する事柄へと続ける。「策を用いずして勝つ」
「そのような状態で」の意で下へ続ける。
「ばっと消ゆるが如く―せにけり」〈平家・三〉
理由・原因を表す。
「これはにぶく―あやまちあるべし」〈徒然・一八五〉
逆接を表す。
格子かうしどもも、人はなく―きぬ」〈竹取
[副助]副詞・助詞などに付いて、意味・語調を強める。「一瞬にして家が倒壊した」「先生からしてあんな事をする」
[補説]2現代語漢文訓読調の文体では、「をして」の形で用いられる。

し‐て[接]

[接]《動詞「する」の連用形+接続助詞「て」から》前に述べた事柄を受けて、それに続けて言うことを導く語。そして。それで。「してご用の趣きは」
[類語]ひいてそれからそしてそうして次いで次についてはひいてはそれ故だから従ってよって故にすなわちですからその上それにてて加えてあまつさえ更にかつまたなおかつおまけに加うるにのみならずしかのみならずそればかりかこの上それどころか

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精選版 日本国語大辞典 「して」の意味・読み・例文・類語

し‐て

  1. 〘 連語 〙 ( 動詞「する」の連用形「し」に接続助詞「て」が付き、助詞のように用いられるもの )
  2. [ 一 ] 格助詞用法
    1. 体言を受け、また多くは「にして」の形で動作の行なわれる空間、時間などを示す。…で。…において。→語誌( 1 )( 3 )
      1. [初出の実例]「これやこの大和に四手(シて)は我(あ)が恋ふる紀路にありといふ名に負ふ勢(せ)の山」(出典万葉集(8C後)一・三五)
      2. 「三十(みそぢ)あまりにして、更にわが心と、一の菴をむすぶ」(出典:方丈記(1212))
    2. 体言または体言と同格の語、および体言に副助詞の付いたものを受け、動作の手段、方法などを表わす。
      1. (イ) 動作を行なう主体を、主語としてではなく数量的に、また手段的に表現する。
        1. [初出の実例]「又七人のみ之天(シテ)関に入れむとも謀りけり」(出典:続日本紀‐天平宝字八年(764)一〇月九日・宣命)
        2. 「身づからも弟子のなかにも験あるして加持し騒ぐを」(出典:源氏物語(1001‐14頃)手習)
      2. (ロ) ある動作を行なう手段としての使役の対象を示す。訓点資料では「をして」の形をとる。→語誌( 2 )
        1. [初出の実例]「諸の有情をして恭敬し供養せ令めむとなり」(出典:西大寺本金光明最勝王経平安初期点(830頃)一)
        2. 「門(かど)あけて惟光の朝臣出で来たるしてたてまつらす」(出典:源氏物語(1001‐14頃)夕顔)
      3. (ハ) 動作の手段、方法、材料などを示す。
        1. [初出の実例]「長き爪して眼(まなこ)をつかみつぶさん」(出典:竹取物語(9C末‐10C初))
    3. 格助詞「より」「から」、副助詞「か」、形容詞連用形、副詞などを受けて、その連用機能を確認する。
      1. [初出の実例]「今かね少しにこそあなれ。嬉しくしておこせたる哉」(出典:竹取物語(9C末‐10C初))
      2. 「やがてこの殿よりしていまの閑院大臣まで、太政大臣十一人つづき給へり」(出典:大鏡(12C前)一)
  3. [ 二 ] 接続助詞的用法。形容詞型活用の語の連用形およびこれらに副助詞の付いたものを受け、また「ずして」「にして」「として」の形で、並列修飾・順接・逆接など種々の関係にある句と句とを接続する場合に用いられる。上代には形容詞語幹に「み」の付いたものを受ける例もある。→語誌( 3 )
    1. [初出の実例]「我が心しぞいや愚(をこ)に斯弖(シテ)今ぞ悔(くや)しき」(出典:古事記(712)中・歌謡)
    2. 「細やかに、たをたをとして物うち言ひたるけはひ」(出典:源氏物語(1001‐14頃)夕顔)

しての語誌

( 1 )[ 一 ]の用法の場合、「し」にはサ変動詞としての意味がいまだ残っていると思われる。
( 2 )平安初期の漢文訓読では、使役の対象を示す場合、常に「…をして…しむ」の形が用いられるとは限らず、「…を…しむ」「…に…しむ」等も用いられたが、平安中期以降「…をして…しむ」の形が固定する〔春日政治「西大寺本金光明最勝王経古点の国語学的研究」〕。
( 3 )[ 一 ]の「にして」、[ 二 ]の「…くして」「ずして」「にして」「として」の形は、平安時代には主として漢文訓読系の語として用いられ、これらに対して和文脈では「にて」「…くて」「ずて」「で」「とて」の形が用いられた。平安末期以降は両文脈が混淆するため、両者の共存する文献が多くなる。


し‐て

  1. 〘 接続詞 〙 ( 動詞「する」の連用形「し」に接続助詞「て」の付いてできた語 ) 先行の事柄を受け、それに続けて言うときのことば。相手の発言をうけて、それに対する疑問を発する時、その冒頭に多く用いられる。そして。それから。
    1. [初出の実例]「して、まづなにとしたぞ」(出典:謡曲・夜討曾我(1480頃))
    2. 「如何にも心得た。してそれはどのやうな物ぞ」(出典:歌舞伎・今源氏六十帖(1695)一)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「して」の意味・わかりやすい解説

シテ
して

(1)能の主役。仕手、為手。一曲のなかで絶対的な重さをもつ演者であると同時に、演出、監督の権限を有する。つねに現実の男性の役であるワキに対し、シテは女・老人・神・鬼・霊などにも扮(ふん)し、能面をつける特権をもつ。前後2段に分かれ、シテがいったん楽屋などに退場(中入(なかいり))する能では、中入前を前シテ、中入後を後(のち)ジテとよぶ。同一人物が扮装を改めて再登場するのが普通だが(例『井筒』『三井寺(みいでら)』)、前後まったく異なる人物の場合もある(例『船弁慶』)。そのときも同一役者が演ずるのが原則。シテは一曲一人であるが、とくに重要なツレを両ジテとして同格に扱う場合もある(例『二人静(ふたりしずか)』『蝉丸(せみまる)』)。三役(ワキ方、囃子(はやし)方、狂言方)に対するシテ方には、観世・金春(こんぱる)・宝生(ほうしょう)・金剛・喜多(きた)の五流がある。喜多流を除く四つの座は、江戸時代までは専属の三役を擁していた。明治以降は催しごとの自由契約制となっている。シテのほか、ツレ・トモ・子方などシテに従属する役、地謡(じうたい)方、後見方、作り物の製作はシテ方の職責である。

(2)狂言の主役。オモともいう。能のように独立の職種ではなく、狂言方はシテにも相手役のアドにも扮する。

[増田正造]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「して」の意味・わかりやすい解説

シテ

能楽の役柄。通常かたかなで書くことを原則とするが古くは「仕手」「為手」とも書いた。能ではシテが主役であり,1曲に1人。他の役はすべてシテに従属する。1曲が前後2段に分れる複式の能の場合は,前半を前ジテ,後半を後ジテという。前,後の役柄が変っても同一の役者が演じるのを原則とする。シテに付随する役がシテヅレであり,ツレの役がシテと並ぶほどに重要なとき,便宜上両ジテという場合がある (『二人静』『蝉丸』『曾我兄弟』など) 。狂言においても,1曲の主役をシテという。古くはオモという呼称もあったが,今日ではすべてシテといっている。 (→アド )

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