日本大百科全書(ニッポニカ) 「競技者基金」の意味・わかりやすい解説
競技者基金
きょうぎしゃききん
athlete fund
国際陸上競技連盟(現、ワールドアスレティックス〈世界陸連〉)が1982年に打ち出した制度で、賞金大会の誕生によりスポーツ選手の賞金や出場料を、その国の陸上競技連盟(陸連)が一時的に保管し、選手の強化にあてる基金。必要に応じて、そのつど口座から引き出され、残りは引退するときに選手に返還される。たとえばマラソンの瀬古利彦(せことしひこ)(1956― )がかつて各種の国際大会で得た賞金は、まとめて陸連が管理し、手数料や彼の所属する企業などへの支払いを除き、彼名義の口座に積み立てられていた。外国では選手が私的な理由で賞金を使ってしまう例もあるが、日本では比較的厳密に守られていた。陸上競技以外にも競泳、柔道など同様の制度がつくられ、各競技連盟内に競技者基金管理委員会などが置かれた。
しかし、海外で選手のプロ化が進み、国際陸連は1993年に制度改正を行い、国内連盟が認めた選手に限っては直接、賞金などを受領できることにした。このため、日本陸上競技連盟(日本陸連)は直接受領できる金額を引き上げたが、女子マラソンの有森裕子(ありもりゆうこ)(1966― )が事実上のプロ宣言となるCM出演など自由な活動を求めたことから、1998年(平成10)に日本陸連は選手のCMやテレビ出演などを認め、1999年には日本オリンピック委員会(JOC)も容認。有森の場合は「タレント活動を本業とする競技者」のカテゴリーで登録されたが、2001年(平成13)の規定改正で高橋尚子(なおこ)が「タレント活動が可能な実業団選手」として事実上のプロ第1号に認定された。その後、競技者基金はしだいに形骸化し自然消滅の道をたどった。
[深川長郎・中西利夫 2021年1月21日]