改訂新版 世界大百科事典 「羈旅歌」の意味・わかりやすい解説
羈旅歌 (きりょか)
旅に触発された種々の感情を主題とする歌。羈(羇)は旅,旅やどりを意味し,羈旅という語は《周礼》《楚辞》などの漢籍にも見えるが,中国では詩の分類用語としてはおもに〈行旅〉の語を用いる。日本で羈旅歌の名称が最初に登場するのは《万葉集》で,旅先の地の景観や家郷,家人への思いを述べた歌を主とし,主要な作品として巻三の柿本人麻呂,高市黒人(たけちのくろひと)の羈旅歌8首などがある。また巻七,十二では部類名としても見えているが,雑歌(ぞうか),相聞(そうもん)などの主要な部立の下位分類名として用いられているにすぎず,旅の歌がいまだ独立の部門と意識されていないことを示している。《古今集》以下の勅撰集になると,多く羈旅,羈旅歌の部立が一巻を占めるに至り,和歌の重要な一部門としての地歩をかためるが,一方その作風には,現実の旅の経験を離れ,歌枕のイメージに依存した観念的な詠みぶりも見られるようになる。
執筆者:身﨑 壽
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報