六訂版 家庭医学大全科 「老年期精神病」の解説
老年期精神病
ろうねんきせいしんびょう
Late-life psychosis
(お年寄りの病気)
高齢者での特殊事情
今日、精神疾患の標準的な診断基準として用いられているDSMⅣTRやICD10においては、老年期精神病という名称は見当たりません。というのも、これは正式な診断名ではなく、
老年期に新たに発症する場合の症状の特徴は、体系的な妄想(訂正がきかない誤った思い込み)が主症状であり、幻覚は伴うことも伴わないこともあります。
妄想の内容としては「いやがらせをされる」「家屋や敷地内に侵入される」「物を盗られる」などといった
幻覚は
一方、若年発症の統合失調症でみられるような思考障害や感情の平板化、
治療とケアのポイント
老年期精神病に対する治療の中心は、抗精神病薬による薬物療法です。薬物代謝能力が低下している高齢者では副作用が生じやすいため、できるだけ少量から始めることが基本です。主な副作用としては、表情が乏しくなる、体の動きがぎこちなくなるなどの
近年、より副作用の少ない
幻覚・妄想への対応は、頭ごなしに否定もしないし、といって同調もしないということが基本です。訴えの真偽に焦点をあてるのではなく、本人が感じている不安やよりどころのなさに共感をもって耳を傾ける必要があります。本人自身には病気という自覚が乏しく、自ら病院を訪れたり薬物療法を希望したりすることが少ないため、医療に結びつけるためには、本人とそれを取りまく家族、知人、医療者との間にしっかりとした信頼関係を築くことが重要です。また、社会的孤立状況や経済状況の悪化も発症要因になりますので、家族との同居や老人ホームへの入所、ヘルパー導入などといった環境調整が有効な場合もあります。
小山 恵子
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報