老年認知症(読み)ろうねんにんちしょう(その他表記)senile dementia

翻訳|senile dementia

改訂新版 世界大百科事典 「老年認知症」の意味・わかりやすい解説

老年認知症 (ろうねんにんちしょう)
senile dementia

65歳以上に発症する脳萎縮に基づく認知症痴呆)を主徴とする老年精神病をいい,かつては老人性痴呆,医学的には老年痴呆といわれた。65歳未満に発症する早発型認知症(初老性痴呆)の一つであるアルツハイマー病と病理学的には差がない。最近は,したがってアルツハイマー型老年認知症senile dementia of the Alzheimer typeと呼ばれる。症状の中心は認知症であるが,初発の症状としては,(1)記銘力障害(最近の出来事を覚えられない),(2)失見当識(時間や場所の見当がつかない)の二つに加え,(3)判断や計算などが極端に悪くなる。それに了解力,思考能力の低下,注意集中困難が加わる。言語障害,情動障害も発現する。下級欲動が表面化し,道徳感情も低下する。目的のない徘徊,乱費,食欲・性欲の一時的亢進がみられ,非系統的な浮動性の妾想(罪業念慮,被害・追跡妄想)や幻視・幻聴が出没する。夜間せん妄状態もときに出現する。病型として,単純認知症型,抑うつ型,妄想型,意識混濁型などが区別される。プレスビオフレニーpresbyophreniaといい,見掛け上精神的活発さを示すが,コルサコフ症候群の前景に出る型もある。末期には植物状態化する。解剖所見では,脳は全般的に萎縮し,脳室が拡大している。萎縮は前頭葉や海馬,扁桃核に強く,その部位では神経細胞が神経原繊維変化を示し,また,神経組織の中に老人斑という沈着物が多数現れる。また,顆粒空胞変性が海馬によく出現する。心理・社会的ストレスで悪化するので,生活指導と薬物療法延命を図ることが最近試みられている。
認知症
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一般に〈ぼけ〉(認知症)とはいったんは発達した知的能力がなんらかの原因で低下した状態を表し,老年認知症(アルツハイマー型)にみられるような病的な場合と,知的刺激の乏しさによる廃用性のものに代表されるような病的でない場合とがある。病的なものの原因は多様で,老年認知症のほか,脳血管性認知症,レビー小体型認知症ピック病による認知症などは,早期発見と早期治療がたいせつである。現在の段階では,認知症を完治することは難しい。しかし高血圧症糖尿病などの身体的疾患の治療が認知症の症状の改善につながることもあり,また認知症の症状の一部を薬物などを使用することによって軽減したり,進行をくい止めることが可能なこともある。また認知症の症状が出現しても,慢性硬膜下血腫,正常圧水頭症などは治療可能であるため,認知症の症状を高齢のためであるとあきらめないことがたいせつである。

 認知症の出現率は,65歳以上人口のうち全体で4~5%程度であるが,85歳以上の高齢者では軽度のものを含め,4人に1人の割合であるといわれる。また18歳から64歳までに認知症の症状が発症する若年性認知症も増加している。認知症の症状や介護にあたる人々の状況によっては,在宅での生活が困難となる場合がある。このような場合の社会的な対策としては,認知症対応のデイサービス,認知症高齢者グループホームや特別養護老人ホームの利用が考えられる。認知症は,なんらかの病的な原因によって生じることが多く,年をとればだれでもが認知症になるわけではないことを,理解すべきであろう。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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