日本大百科全書(ニッポニカ) 「初老期精神病」の意味・わかりやすい解説
初老期精神病
しょろうきせいしんびょう
明確な定義はないが、初老期(ほぼ40歳から60歳代前半)に好発するいくつかの精神疾患の総称名として用いられることが多い。すなわち、初老期に初発する妄想性精神病やうつ病であり、これに痴呆(ちほう)性疾患(初老期認知症)を含めている場合もある。
[柄澤昭秀]
初老期の妄想性精神病
初老期に初めて発症した妄想状態あるいは幻覚妄想状態で、統合失調症に似た病像であるが、これらのすべてが遅発性または晩発性の統合失調症であるとはいいきれない。むしろ、双極性障害(そううつ病)に近いと思われるものや心因反応と思われるものなど、さまざまな場合があると考えられている。
[柄澤昭秀]
初老期うつ病
初老期に初発するうつ病をとくにいう。定型的なうつ病像を示さない場合がしばしばあるため、普通のうつ病とは違う特殊な初老期精神病と考えられたこともあるが、いまでは本質的に普通のうつ病と変わらないと考えられるようになった。したがって、初老期うつ病という語もいまはあまり使われなくなってきている。
[柄澤昭秀]
初老期認知症
初老期に好発する原因不明の脳変性疾患の総称であり、共通する症状は進行性の認知症である。その代表的なものはアルツハイマー病、ピックPick病およびクロイツフェルト・ヤコブ病である。アルツハイマー病では、大脳皮質全般に変性萎縮(いしゅく)がおこり、顕微鏡的にはアルツハイマー原線維変化や老人斑(はん)などの特徴的な変化が認められる。ピック病では、大脳皮質や白質に限局性の萎縮がおこる。前頭葉と側頭葉が冒される場合が多い。顕微鏡的にはアルツハイマー病と違って原線維変化や老人斑などはみられない。クロイツフェルト・ヤコブ病では、大脳のみならず視床、小脳、脊髄(せきずい)に及ぶ広範な領域に変性がおこる。症状の進行が速く、余命も短い。この疾患の原因としてスローウイルス感染が有力視されており、プリオンの関与が広く認められている。
[柄澤昭秀]