育苗センター(読み)いくびょうせんたー

日本大百科全書(ニッポニカ) 「育苗センター」の意味・わかりやすい解説

育苗センター
いくびょうせんたー

水稲などの苗を共同で育てる施設。昭和40年代に、田植機の普及によって、水稲の育苗法は大きく変わった。すなわち、催芽(さいが)した種籾(たねもみ)を育苗箱(全国統一規格30×60×3センチメートル)に播(ま)き、育苗器(32℃標準)に2日間入れて出芽させ、弱光でさらに2日間緑化させる。次に育苗箱をビニルハウストンネルに並べて、温度や灌水(かんすい)の管理をしつつ硬化させると、播種(はしゅ)後20日ほどで4枚目の葉が出始め、草丈10~15センチメートルの苗(稚苗(ちびょう))となる。このように、稚苗はほとんど人工的に調節された環境のもとで、短期間に集約的に育苗できる。そこで、育苗を個々農家で行うのではなく、共同で大規模な機械設備(床土(とこつち)調製機械や播種プランターなど)や育苗施設(出芽室、緑化室、硬化ハウスなど)を備えた育苗センターで行うところが多くなった。育苗センターは50~100ヘクタールの水田に苗を供給できる規模(苗箱で1万~2万箱生産)のものが普通で、農業協同組合や育苗組合によって経営されることが多く、専任の技術担当者を置き作業員は農家から雇い、できた苗箱を個々の農家に売る形をとっている。完成した稚苗を売る場合と、緑化終了の時点で農家に売り、後半の育苗は個々の農家が行う場合とがあるが、後者の場合には最近増えた中苗(稚苗より1~3葉大きく育てる)の育苗にも利用されている。いずれの場合も、育苗センターでは、1シーズンに5~10回も育苗を繰り返し行う。

 近年、農家の兼業化が進み、また水稲の作付け制限で栽培量が減ったことなどもあり、育苗センターへの依存度が高まっている。最近は苗を移植適期に集中的に供給するためと、生産供給量を増やすために、苗の貯蔵技術も開発され、一部では実用され始めている。育苗センターは水稲のみでなく、タバコや果菜類などの育苗にも利用され、団地化した産地では広く実用化されている。

[星川清親]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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