イネの苗を本圃(ほんぽ)に移植するのに使用する機械。日本をはじめイタリアや中国などで1960年ごろから研究開発が始まった。その田植機は、苗代で育苗した苗を手で抜き取り、根についた土をよく洗い落として田植機に供給する根洗い方式の機械であり、イタリア製は実用化されず、中国製は作業効率と作業精度が低いため、中国の一部の地域での利用にとどまった。
日本でも根洗い方式の機械化研究を実施し、市販化の段階に達したが、1970年代に新たな発想に基づく稚苗(ちびょう)用の田植機が開発された。省力的に苗の取扱いができる箱育苗(はこいくびょう)の苗を用いる田植機である。
箱育苗の苗は、根と根が絡み合ったマット状に育てられる(マット苗)。3葉程度の稚苗から4葉程度の中苗(ちゅうびょう)に育ったマット苗は、根に土のついた状態で、田植機の苗のせ台に供給される。そして、回転運動をする植え付け爪(づめ)が、左右に移動する苗のせ台から苗を1株ずつ切り取りながら挟み出し、圃場(ほじょう)の田面に一定間隔ごとに植え付けていく。
この育苗法と一体化した稚苗用田植機が、省力化により農家を重労働から解放するとして、急速に普及した。1984年(昭和59)には水稲作付総面積の95%がこの田植機によって植え付けられるようになり、2005年(平成17)には99%までに達した。
田植機には3馬力程度の原動機を搭載した歩行用の2条植えと4条植えがあり、作業能率の高い乗用型の6条、8条植機も普及している。作業能率は、歩行4条植機で毎時12アール程度、乗用6条植機で20アール程度の能率を示し、欠株発生率も2~3%に収まる。
[宮澤福治]
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…永年経過したかなり大きな樹の移植は一度にするのでなく,1~2年がかりで根を切りつめ,支根の発生を促進してから移植する。
[機械移植]
田植の忙しさと重労働からの解放をめざした田植機の発明は明治時代から試みられてきた。当初は手植えの場合と同じ苗を機械によって一定本数ずつ植え付ける形式の田植機の発明に重点がおかれたが成功しなかった。…
…苗代あるいは育苗箱内で苗を育て,これを1株ずつ植える田植方式は,直播に比べると多くの労働力を必要とするにもかかわらず,日本で一般的に行われている理由は,(1)本田での生育期間が短縮され,土地の利用度を高めるとともに春先の不安定な気象条件から幼苗を保護することができる,(2)発芽したばかりの幼植物に比べて大きな苗を植えることにより,雑草に対する競争力が大きい,(3)苗を狭い苗代,育苗箱で育てることにより,苗の保護管理(保温するなど)が行きとどき,良い苗を選びそろえて移植することができるなどによるものである。日本では,昭和30年代までは苗代で育苗し,約7枚の葉をつけた大きな苗(成苗)を手で植えていたが,40年代に入って田植機が開発され,約10年で全国の水田面積の90%以上が機械移植に変わった。田植機の開発は古くから多くの考案がされてきたが,実用化されたものはまったくなかった。…
…苗代での苗作りと田植は稲作中心の農業の特徴をなす作業であり,その機械化は困難とされたが,1965年前後から試作・試験が進み,70年に国の統計に姿を現す。その年3万0250台だった田植機は81年には188万台を超え,主要稲作地帯の普遍的農機具となった。これに先立って刈取・結束をするバインダー,刈取・脱穀をするコンバイン・ハーベスターも普及し始め,田植機用の育苗方法も完成して,稲作の全過程が機械化されたのが今日の姿である。…
…営農作業は整地耕耘(こううん)作業から,収穫調製作業などまで数段階に及ぶため,機械の種類が多い。用途別にみると,整地耕耘用機械(装輪式トラクター,動力耕耘機など),栽培用機械(田植機,野菜苗移植機など),管理用機械(噴霧機,散粉機など),収穫調製用機械(稲麦刈取機,刈払機,コンバイン,脱穀機,籾すり機,乾燥機など),飼料用機械(飼料さい断機など),穀物処理機械(精米麦機,製粉機械,製めん機など),製茶用機械などがある。日本の1997年の農業機械の生産額は6024億円で,そのうち装輪式トラクター(2194億円),動力耕耘機(318億円),田植機(532億円),コンバイン(1526億円)などの占める割合が高い(通産省〈生産動態統計〉による)。…
※「田植機」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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