日本大百科全書(ニッポニカ)「育苗」の解説
育苗
いくびょう
苗を育てること。苗は、畑や水田などに移植することを前提とした作物の幼植物のことで、比較的高い密度で、集約的に育成される。作物の幼植物は、気象や雑草、病気などの環境の影響を受けやすいので、田畑に直接種子を播(ま)いて栽培するよりも、育苗し、ある程度大きくしてから移植したほうが有利な場合が多い。また、田畑に他の作物が栽培されている時点から育苗を始め、収穫後すぐに移植すれば、土地の有効利用もできる。さらに、保温や加温をして早くから育苗を始め、外で生育できる気温になった時点で苗を移植すれば、早期の収穫が可能となる。
育苗の方法は作物の種類によって異なるが、歴史は古く、稲作の場合、奈良時代には苗を育て、田植をする技術が一般化していた。現在では、田植機の普及や田植作業の変化に伴い、育苗器を使っての箱育苗が中心となっている。箱育苗で稚苗(ちびょう)育苗の場合、1箱(30×60×3センチメートル)当り7000個体という高い密度の育苗が可能である。果樹では挿木(さしき)や接木(つぎき)によって苗を育てることが多く、またスイカ、カボチャなど果菜類でも接木で苗を育てる技術が発達し、普及してきている。
[星川清親]