日本大百科全書(ニッポニカ) 「胃下垂症」の意味・わかりやすい解説
胃下垂症
いかすいしょう
胃の不定症状を訴えながら胃の下垂以外には器質的変化が認められないもので、固定靭帯(じんたい)の弛緩(しかん)に基づく内臓下垂の一分症ともみなされている。胃X線写真の立位充盈(じゅうえい)像(造影剤が充満した像)で、骨盤の左右の腸骨稜(りょう)を結んだジャコビーJacoby線を基準として、胃の大彎(だいわん)(胃下極)または小彎(胃角)がそれより下方にあれば胃下垂症と判定される。前者の場合は第1度、後者を第2度というが、後者が重症とは限らない。また、このような胃のX線像を呈するものでも、30~40%はまったく無症状で健康人であることから、胃下垂症を独立疾患としては取り扱わない傾向にある。症状としては、心窩(しんか)部(上腹部、みぞおち)の鈍痛、膨満感、重圧感、胸やけ、げっぷなどを訴えることもあるが、X線像による胃の下垂程度とこれらの臨床症状はかならずしも並行しない。一般的に、無力性体質のやせた人に多く、神経症、心身症傾向がみられることもある。
治療は、消化器症状を呈する場合にのみ行われ、食事療法や精神療法のほか、消化酵素剤や胃緊張亢進(こうしん)剤などの薬物療法がある。また、腹筋を強化する運動をしたり、腸間膜脂肪を増加させるために体重を増やしたりするのもよい。なお、手術療法は胃下垂症にはまったく適応がない。
[竹内 正・白鳥敬子]