日本大百科全書(ニッポニカ) 「腸癒着症」の意味・わかりやすい解説
腸癒着症
ちょうゆちゃくしょう
腸は一部後腹膜に固定されているが、大部分は腹膜に包まれて腹膜腔(くう)にある。腸管を包む腹膜や、腹膜腔の腹膜、大網(だいもう)などの腹膜が一度損傷を受けると、その部が他の部の腹膜と癒着しやすくなる。腹膜の損傷には炎症のほか、物理的、化学的損傷など各種の損傷が考えられる。たとえば腹膜炎や開腹手術などは腹膜を損傷するので腸癒着の原因となる。腸は癒着しても、腸内容の通過障害がなければ症状はないことも多い。しかし、癒着によって腸管が屈曲したり、ねじれたりすると、腸内容が停滞し、腹痛、腹鳴、腹部膨満、吐き気、嘔吐(おうと)を伴うようになる。腸閉塞(へいそく)には至らないが、愁訴が出没するのが腸癒着症である。腸閉塞の状態になっても、まず保存的に治療し、安易な腸癒着剥離(はくり)術は慎むほうがよい。
[古味信彦]