生理的には互いに遊離している粘膜、漿膜(しょうまく)などがくっつくことを意味する。たとえば、腹腔(ふくくう)の中に存する腸管の漿膜と腹腔内面を覆っている腹膜とは、正常では完全に遊離しており、そのために腸管は腹腔内で移動性を有していることになる。しかし、この腹腔に炎症、すなわち腹膜炎がおこると、腹膜と腸管漿膜、あるいは腸管漿膜どうしが種々の程度にくっつく、つまり癒着を呈することとなり、腸管の運動性が障害されたり、内腔の狭窄(きょうさく)などを引き起こす原因となる。この癒着の程度は一般に炎症の種類および古さと関係する。すなわち、線維素を滲出(しんしゅつ)物に多く含む線維素性炎症の場合は、線維素相互の癒着が容易に認められるが、その性質上、比較的緩い癒着であるため、剖検の際、手を用いることで簡単にはがれるのが常である。しかし、この線維素炎でも、あるいはその他の種類の炎症でも、時間が経過すると結合織線維による器質化などの治癒過程を呈するようになり、線維性結合織による癒着に変化し、手を用いてもはがれないように強固なものとなる。
臨床的には、腸の内容が腸管を通過することができず、腸管壁の破綻(はたん)をおこし、腹膜炎、ショックなどの重篤な状態となる腸閉塞(へいそく)(イレウス)の原因として、腸管の癒着による閉塞、絞扼(こうやく)(循環障害の著名な閉塞)が重視されている。胸腔においては、結核性胸膜炎の結果として、胸膜の線維性癒着をみることがまれではなく、心嚢(しんのう)腔でも、線維素性心外膜炎、慢性線維性心外膜炎などの場合、心外膜と心嚢の癒着をおこし、心機能は低下する。
[渡辺 裕]
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