口から摂取した飲食物は、胃、小腸、大腸を通って消化・吸収され、便となって肛門から排泄されます。また、唾液や胃液をはじめとする消化液が、1日数ℓも胃腸のなかに分泌されますが、これも小腸や大腸で吸収されて残りは便とともに排泄されます。
これらの食べ物や消化液の流れが小腸や大腸で
原因が腸の外側にある場合と、内側にある場合があります。
腸の外側に原因がある場合とは、腸が外側から圧迫されたり、ねじれたりする場合です。腹部を切る開腹手術を受けたことのある患者さんでは、腸と腹壁、腸同士の癒着が必ず起こりますが、癒着の部分を中心に腸が折れ曲がったり、ねじれたり、癒着部分でほかの腸が圧迫されたりして腸が詰まる場合が最も一般的です。
そのほか、高齢の女性では、大腿ヘルニアと呼ばれる脱腸の一種でも腸閉塞になります。内ヘルニアと呼ばれるおなかのなかのさまざまなくぼみに腸がはまり込む病気でも、腸が詰まることがあります。まれに、腸自体が自然にねじれて詰まることもあります(
腸自体が圧迫されたり、ねじれたりするだけでなく、腸に酸素や栄養分を送る血管が入った膜(
腸の内側に問題がある場合としては、大腸がんによる閉塞があり、高齢者で便秘傾向の人では硬くなった便自体も腸閉塞の原因になります。
突然、激しい腹痛と吐き気・嘔吐が起こります。おなかが張り(
腹痛は、きりきりと強い痛みが起こり、しばらくすると少し和らぎ、これを繰り返す「
嘔吐の吐物は、最初は胃液(白色から透明で酸っぱい)や胆汁(黄色で苦い)ですが、進行すると腸の奥(小腸や大腸)から逆流してきた腸の内容物となり、下痢便のような色合いで便臭を伴うようになります(
腸間膜も圧迫されたり、ねじれたりする絞扼性腸閉塞では、激しい腹痛が休まることはなく、時間とともに顔面蒼白、冷汗、冷感もみられ、脈や呼吸も弱く速くなり、ショック状態になります。
X線、超音波、CT検査を行います。腸だけでなく、腸間膜も圧迫されたり、ねじれたりする絞扼性腸閉塞と区別することが大切ですが、この区別は時に困難です。絞扼性腸閉塞が疑われ、その疑いが晴れなければ、手術に踏み切ります。
絞扼性腸閉塞でなければ、ほとんどは手術以外の方法(保存的治療)で治ります。食事や飲水を中止し、胃腸を休め、十分な補液を行います。
病状が進行して、腸の張りが強くなった場合は、鼻から胃や腸まで管を入れ、嘔吐のもととなる胃や腸の内容物を体の外に汲み上げます。腸の張りが少なくなれば、腸から吸収され快方に向かいます。
おならや便が出れば、腸の通過障害は一応治ったことになりますが、腸が詰まった原因、つまり癒着や腸がはまり込んだおなかのくぼみは治らないため、再発の危険は残ります。
手術的治療は、おなかを切ることで新しい癒着をつくることになり、腸閉塞にいっそうなりやすくしてしまうため、避けるのが一般的です。手術が必要な場合は、腸の血管が圧迫されたり、ねじれたりする絞扼性腸閉塞や、保存的治療を1週間以上続けてもよくならない場合、何度も腸閉塞を繰り返す場合などです。
自然に治ることはないので、早めに病院の外科を受診する必要があります。がまんして様子をみて、夜間や休日になってから病院を受診しても、適切な治療を受けられないこともあります。症状が激しければ救急車を要請します。
おなかの手術後の癒着による腸閉塞では、体調がすぐれない時には食事内容を軟らかい消化のよいものにするなどの工夫は必要ですが、完全に予防する方法や注意点はありません。
杉山 貢
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
腸閉塞症、イレウスileusともいう。腸内容の通過が妨げられ、閉塞部の口側に腸内容が貯留し、腸管の拡張がおこる。拡張腸管は分泌亢進(こうしん)、吸収低下のため、いっそう拡張するという悪循環が成立し、急速に全身状態が悪化する。イレウスは機械的と機能的とに大別され、機械的イレウスの頻度が高い。機械的イレウスは腸管への循環障害の有無によって絞扼(こうやく)性と単純性とに分ける。イレウスの症状としては間欠性腹痛、吐き気、嘔吐(おうと)、腹部膨満、排便と排ガスの停止などがみられる。
救急処置が必要で、まず腸内容を吸引排除して腸管内の減圧を図り、悪循環を断つ。水分、電解質の喪失には適正な輸液を行う。脱水による循環血液量減少に加えて、薄くなった拡張腸管から血中と腹膜腔(くう)への細菌の移行、腸管からの毒素の移行などと相まって敗血症、腹膜炎、エンドトキシンショックなど致命的な合併症に移行しうる。
治療は腸内容の排除、適切な補液が術前処置として必要である。手術が必要かどうかは、イレウスが絞扼性か単純性かの鑑別診断によって決める。イレウス症状に加えて、高熱、白血球増多、腹膜刺激症状の進行などがあれば絞扼性の可能性が高く、腸管壊死(えし)、穿孔(せんこう)による腹膜炎がおこらないうちに手術して病因を除くようにする。イレウスの頻度は単純性の癒着性イレウス(開腹手術後の癒着によるもの)がもっとも高く、絞扼性のものは少ない。
[古味信彦]
(2016-1-20)
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…腸閉塞intestinal obstructionともいう。腸管の閉塞によって腸の内容物の輸送が障害される病気の総称。…
…
【急性の腹痛】
医学的には急性腹症といい,上記の第2で述べた体性痛性の病気がこのうちに入る。穿孔(せんこう)性腹膜炎,腸閉塞,急性膵臓炎など緊急手術が必要な状態であることが多い。普通の食中毒や急性胃腸炎などの痛みとちがって,少しくらいの痛止めの注射(鎮痙剤)によっても痛みはおさまらず,あるいはいったんおさまった痛みがまたすぐ起こってくるものであって,自覚的にも病気の重大さに気づくことが多い。…
※「腸閉塞」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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