平野謙の評論集。1958年1月講談社刊。〈私小説(わたくししようせつ)の二律背反〉を総論とし鷗外,花袋,藤村,秋声,荷風,漱石の作家論と〈演技説修正〉ほかの評論から成る。生の危機意識を制作動機とする私小説家が,実生活にみずから危機を設定するため起きる生活破壊と,そういう危機を警戒克服するところに実生活上の調和を求めて起きる制作意欲沈滞という二律背反説が有名。この論の根底には自然主義文学からマルクス主義文学にいたる日本近代文学の根強い私小説的伝統の克服という問題意識がある。芸術と実生活の相関関係を追究し作家の実生活に鋭く切り込むその方法は,批評のリアリティの一極致とされ,芸術選奨を受賞した。
執筆者:中山 和子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…そのマルクス主義文学批判の精緻な史的検討を《昭和文学史》(1959)に集大成した。私小説的文学伝統の克服を課題とし私小説の二律背反を解明,芸術と実生活の相関関係を追求した《芸術と実生活》(1958,芸術選奨受賞)は批評のリアリティの一極致とされる。ほかに《文芸時評》(1963,69年毎日出版文化賞),《さまざまな青春》(1975,野間文芸賞)などがある。…
※「芸術と実生活」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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