改訂新版 世界大百科事典 「荘園志料」の意味・わかりやすい解説
荘園志料 (しょうえんしりょう)
清水正健(1856-1934)編。水戸に生まれ,《大日本史》編修の最後の学者で《荘園考》をまとめた栗田寛の門に入った清水は,1882年彰考館に入り,《大日本史》志類の校訂に従事した。96年同館を辞したのち,教壇に立ちつつ独力で研究を進め,諸国の荘園を国郡別に網羅,その個々について関係史料をあげた本書を1921年に完成し,33年啓明会の援助を得て刊行した(65年,角川書店再刊)。清水は荘園の発達が天皇による土地人民支配に対する弊害になったととらえ,その視点から荘園の本質を究明しようとした。本書が荘だけでなく,園,牧,杣,厨,院,保,領,開発,名,勅旨田,位田,別符,寺社から公領にまで目を向けているのはこの視点によるもので,清水はその所在を確認すべく,現地調査を広く行っている。冒頭の〈提要〉はこの見方による要を得た荘園公領制の概説となっており,近国・中国・遠国に分け,国郡ごとに諸荘の史料をまとめた本書は,荘園研究の手引,事典としていまも絶大な価値を持っているだけでなく,荘園研究史上,不朽の意義を有するといえよう。
執筆者:網野 善彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報