日本大百科全書(ニッポニカ) 「葉月物語絵巻」の意味・わかりやすい解説
葉月物語絵巻
はつきものがたりえまき
鎌倉時代の絵巻。物語の出典が不明のため、詞書(ことばがき)冒頭の「八月(はつき)十よひ、しもつかたなる……」の句をとって、題名にあてている。もと詞・絵各六段の一巻であったが、現在は12面に分断・保存される。現存六図はいずれも屋内に貴族の男女が登場し、王朝の物語に取材したと思われる。絵は濃彩の作絵(つくりえ)の伝統を踏襲し、人物の描写も引目鈎鼻(ひきめかぎはな)の手法を忠実に守る。その古様な作風から鎌倉中期ごろの擬古的な作とする考えが支配的であるが、一部に平安末期の制作を唱える説もある。なお詞書は鎌倉末(14世紀初頭)と考えられる。重要文化財。名古屋・徳川美術館蔵。
[村重 寧]
『小松茂美編『日本絵巻大成10 葉月物語絵巻他』(1978・中央公論社)』