日本大百科全書(ニッポニカ) 「蝶の道行」の意味・わかりやすい解説
蝶の道行
ちょうのみちゆき
歌舞伎(かぶき)舞踊。義太夫節(ぎだゆうぶし)。並木五瓶(ごへい)作、1784年(天明4)1月大坂中(なか)の芝居初演の『傾城倭荘子(けいせいやまとそうじ)』の道行景事(けいごと)としてつくられたもの。原作は三十三間堂通し矢の話に、京の岡崎に起きた妹殺しの事件を加えて脚色した六幕の時代物で、恋仲の助国(すけくに)と小槇(こまき)が北畠・桃井両家の御家騒動の犠牲となり、主家の若殿や息女の身替りとなって死ぬが、2人は花に飛び交う蝶をうらやんでいたので、死後、その蝶になって秋の花園で道行をするという筋(すじ)。原曲は宮薗(みやぞの)節だったが、1818年(文政1)大坂の人形浄瑠璃(じょうるり)で義太夫節に改曲、明治以後絶えていたのを、1936年(昭和11)鶴沢道八(どうはち)・野沢喜左衛門(きざえもん)により復曲。歌舞伎では56年(昭和31)に取り上げられ、その後、新しい振付け・演出も考えられて、一般の舞踊会でも多く上演されている。最後の地獄の責めを見せる急テンポな曲と振が眼目。
[松井俊諭]