蠅の王(読み)はえのおう(その他表記)Lord of the Flies

日本大百科全書(ニッポニカ) 「蠅の王」の意味・わかりやすい解説

蠅の王
はえのおう
Lord of the Flies

イギリスの小説家ゴールディング長編小説。1954年刊。19世紀の作家バランタインRobert Michael Ballantyne(1825―1894)の『珊瑚(さんご)の島』The Coral Island(1858)における、ビクトリア朝の揺るぎなき価値観を失うことのない少年たちの冒険談を、恐るべき陰画へとパロディー化した作品。飛行機事故で南海孤島に漂着した一群のイギリス少年たちは、文明的な規準を自らに課して、共同体をつくるが、やがて加速度的に血に飢えた原始的野蛮状態へと退行してゆく。「蠅の王」とは「悪魔」を意味する聖書の句であり、ここでは、少年たちの意識の暗闇(くらやみ)から現れて彼らを支配する魔性の力を暗示している。

高橋康也

『平井正穂訳『蠅の王』(『現代の世界文学』1973・集英社)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内の蠅の王の言及

【ゴールディング】より

…その後海軍軍人として第2次大戦に参加,除隊後は高校教師(1945‐54)をつとめた。54年,核戦争下に孤島に漂着した少年たちが原始的な悪に染まってゆく姿を描いた寓話《蠅の王》を発表,18,19世紀のイギリスの漂流孤島文学(特に少年もの)をパロディ化したこの作品は,その反楽天的な人間と透明な文体で一躍文壇の注目を浴びた。この後も原始人の世界を描いた《継承者たち》(1955),第2次大戦中溺死した男の,生死ももうはっきりしない状態での我執を描いた《ピンチャー・マーティン》(1956),一見普通のイギリスの若者の成長と挫折を描いた《自由な堕落》(1960),《ピラミッド》(1967),独力で教会の尖塔建設に没頭する中世の聖職者の物語《尖塔》(1964)などがある。…

【バランタイン】より

…人間の善性に対する楽天観が当時は好評を呼んだが,20世紀になって批判された。W.ゴールディングの《蠅の王》(1954)は,この作品のパロディでもある。【小池 滋】。…

※「蠅の王」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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