改訂新版 世界大百科事典 「親指トム」の意味・わかりやすい解説
親指トム (おやゆびトム)
Tom Thumb
子宝に恵まれない夫婦に,親指ほどの小さい子が生まれる昔話。ヨーロッパ各地ばかりでなく,日本にも伝承されているが,トムはイギリスの昔話の主人公である。魔法使いマーリンがこじき姿で旅をしていて,親切な百姓夫婦の世話になる。彼らには子がなく,親指ほどの子でもと願っているので,マーリンは願いをかなえてやる。その子は親指トムと名づけられ,すばしこくて悪知恵がある。小さいためにプディングの中に練りこまれたり魚にのみこまれたりするが,しまいにアーサー王の寵児となる。宝をもらって親もとに帰る途中,水に落ち,クモの毒で殺される。ドイツの《グリム童話集》では〈親指小僧Daumesdick〉といい,同じく冒険物語だが,最後には無事親もとにもどる。日本の〈一寸法師〉〈五分次郎〉もこれと同系の話と考えられる。魚や鬼の腹の中に一度のみこまれ,それを脱出してから一人前になるというモティーフは,シャマニズムの成年儀礼における死と再生のなごりと考えられている。
執筆者:小澤 俊夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報