一人前(読み)イチニンマエ

デジタル大辞泉 「一人前」の意味・読み・例文・類語

いちにん‐まえ〔‐まへ〕【一人前】

一人に割り当てる量。ひとりぶん。ひとりまえ。「一人前の料理」
成人であること。また、成人の資格・能力があること。ひとりまえ。「一人前のことを言う」「一人前に扱う」
技芸学問などが一応の水準に達していること。「一人前の医者」
[類語]一丁前ひとかど大人おとな大人だいにん成人社会人成丁せいてい成年丁年ていねん壮年分別盛り訳知りアダルト壮丁壮者おじさんおじちゃんおっさんおっちゃん親父おじん父ちゃん坊やおばさんおばちゃんおばん

ひとり‐まえ〔‐まへ〕【一人前】

いちにんまえ」に同じ。

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精選版 日本国語大辞典 「一人前」の意味・読み・例文・類語

いちにん‐まえ‥まへ【一人前】

  1. 〘 名詞 〙
  2. ひとりに振り当てられた分量。ひとりぶん。
    1. [初出の実例]「先あたまに一人前より、金壱歩宛出し」(出典:浮世草子・傾城色三味線(1701)江戸)
  3. 成人であること。また、成人としての資格や能力があること。
    1. [初出の実例]「御一人前(イチニンマヘ)の分別あるは湯屋の張札の如く」(出典:滑稽本浮世風呂(1809‐13)大意)
  4. 技能などが人並みの域に達すること。また、その世界で通用するほどになっていること。
    1. [初出の実例]「次第に五円貸す十円貸すと云ふやうになって〈略〉とうとう一人前の高利貸になった」(出典:雁(1911‐13)〈森鴎外〉四)
  5. 江戸時代、東北諸藩での村落構成単位。一般にいう一軒前に同じ。
    1. [初出の実例]「百姓壱人前之持高、五貫文より上之持添仕間敷由」(出典:公儀御触御国制禁‐正徳元年(1711))

ひとり‐まえ‥まへ【一人前】

  1. 〘 名詞 〙
  2. ひとりに与えるべき分量。ひとりが受け持つべき分量。いちにんまえ。
    1. [初出の実例]「お雑餠(ざうに)は大方ひとり前、三升宛に搗いたれば」(出典:浄瑠璃傾城酒呑童子(1718)二)
  3. 人並みであること。成人としての資格や能力があること。いちにんまえ。
    1. [初出の実例]「一人前田も青ませて夕木魚」(出典:俳諧・七番日記‐文化一〇年(1813)六月)

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改訂新版 世界大百科事典 「一人前」の意味・わかりやすい解説

一人前 (いちにんまえ)

成人した者とか,なんらかの技能が一定の水準に達した者に対する評価の言葉。地方によってはヒトリマエともいう。現代社会では職業の多様化と教育の長期化により,一人前という呼称やその実質性は薄れつつあるが,往時の村落社会では通過儀礼とも関連し,重要な意義をもっていた。一人前として当該社会から評価されることは,主に労働婚姻の両面における有資格者として公認されることを意味したからである。つまり一人前と認められれば,共同労働や雇用労働にさいし,収穫物や賃金を人並みに配分されたが,いわゆる半人前では,それらは5分ないし7~8分という差別待遇であった。また婚姻のみならず,婚姻を前提としたヨバイも認められることになった。村落社会における一人前の基準は,いちおう5種類に分けられる。すなわち,(1)一定年齢によるもの。たとえば男子の数え年15歳,17~18歳,20歳などで,このうち15歳という例が多い。こうした一定年齢による基準は,各人の体力差や経験度を無視した画一的なものだが,それは為政者村役人などが,一定年齢以上の男子を賦役の対象者として把握した行政措置とも関連があるとみられる。したがって女子の場合は,この種の基準はやや少ない。20歳というのは,徴兵検査施行後の比較的新しい慣習である。(2)肉体的な成長度によるもの。これは,とくに女子の初潮が代表例として挙げられる。(3)一定の労働量によるもの。一人役・一手役ワッパカ仕事などと称し,農作業なら男子でたとえば1日当り田起し1反,畑うない5畝,田植7畝,草取り1反,その他,米つき1石,縄ない6把などと,作業ごとに基準があった。ただし基準量は地域によって多少異なる。女子の場合は,男子の基準をやや下回るが,機織では1日に1反という例もある。(4)成年式を経たもの。男子は元服,女子は初潮祝,また鉄漿(かね)付け祝などの成年式を済ますと一人前と認められた。山岳信仰・霊山信仰が盛んな地方では,霊山登拝が成年式の意味をもち,登山後に一人前となる慣習が広くみられた。(5)若者組や娘組などの年齢集団への加入によるもの。若者宿・寝宿・娘宿への参加もこのうちに含まれる。以上のごとくであるが,実際には(3)以外の各基準は相互に関連し,複合的な形態を示すのが一般的であった。たとえば,男子なら15歳で元服をし,その直後に若者組へ加入することで当該社会から一人前として公認される,などである。(3)がやや異例であるが,それは年季奉公や賃労働のおりの評価にさいし,より実質的な判定基準を必要としたからに相違ない。したがって,(3)とその他の基準が一地域に並存する場合も多いのである。なお,現代でも職人と芸能人の社会では,比較的一人前の観念を強く残しているが,そこでは概して一定の修業年限を経て,特定の技能を習得した者が一人前とみなされている。
一軒前 →成年 →成年式
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「一人前」の意味・わかりやすい解説

一人前
いちにんまえ

1人の男や女が成人後に備えているはずとされる心身、技能、力量などの総称。各種の職場をはじめスポーツや芸能方面でも漠然と人並みの能力というほどの意味で用いられることもあるが、村落社会では古来共同労働を組むうえで一定以上の労働力が要請され、1人前の標準作業量をはっきりと設ける場合が多かった。その標準量を一人役(いちにんやく)、一手役(いってやく)、ワッパカ仕事などとよび、農作業をはじめ各種作業についていちいち男女別に1日どれだけと決めた所も珍しくない。たとえば、男は田打ちならば1反(10アール)、物を背負う力では四斗俵1俵(約60キログラム)、女は男の半人前から7、8分で、田植ならば7畝(せ)(7アール)、機(はた)織りでは1反(鯨尺で約8.5メートル)といったぐあいであった。農家の奉公人や職人の徒弟などにはその作業量がとくに厳しく求められた。

 また一人前を年齢で定める場合があり、男は数え年15歳、女は13歳とする例が多かった。これは、若者組、娘組の年齢集団に加入し、あわせて元服(げんぷく)祝、鉄漿(かね)付け祝など成年式をあげるころでもあった。一人前になれば、村落社会の一員として祭礼や村寄合、村仕事に正式に参加することが許され、また結婚の資格が与えられた。

[竹田 旦]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「一人前」の意味・わかりやすい解説

一人前
いちにんまえ

労働にも神事にも,村人の一人として奉仕,参加できる資格をいう。日本の各地の慣習によると,若者組に加入後,50~60歳までが一人前として認められる期間で,ある一定の力仕事を消化できることが条件とされた。一人前の労働の標準量は,各地方とも大差ないが,田起しは1日に3~4俵取り,田植えは1日に4~5俵取り,草取りは1日に1反,稲刈りは1日に3~4俵取り,臼つきは5俵などが要求された。一人前に達すると初めて婚姻の機会が与えられるとともに,たばこ入れを持ったり,農服を着ることが許され,外見的にもそれ以前とは区別された。同様の概念は世界各地にみられる。 (→イニシエーション )  

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世界大百科事典(旧版)内の一人前の言及

【一人前】より

…地方によってはヒトリマエともいう。現代社会では職業の多様化と教育の長期化により,一人前という呼称やその実質性は薄れつつあるが,往時の村落社会では通過儀礼とも関連し,重要な意義をもっていた。一人前として当該社会から評価されることは,主に労働と婚姻の両面における有資格者として公認されることを意味したからである。…

【入墨∥刺青】より

…女性のあごや口唇部の入墨は,ニュージーランドのマオリ族では既婚者,インドのトダ族では母親,アイヌでは可婚者の印となるが,女性におけるこの部位の入墨は北アメリカ,北東アジア,アッサム,ニューギニア,フィジー,近東,北アフリカと広く分布している。また腹部から上腿部にかけて一面に施され,半ズボンをはいたように見える入墨は,アッサムから東南アジア,中国西南部,ボルネオに分布し,ビルマ人やタイ系諸族では一人前の男の印であった。これらの部位に施される入墨については,生殖能力との象徴的連関が考えられる。…

【子ども(子供)】より

…15歳は子どもでなくなる年齢である。15歳に達すれば一人前の人間として扱われることは戦国大名の家法の条文をはじめ,江戸時代の幕府法にもしばしばみられることである。たとえば《今川仮名目録》は〈童部(わらわべ)あやまちて友を殺害の事,無意趣の上は,不可及成敗。…

【成年式】より

…成年式とは,子どもから一人前のおとなへ移行する際に,その境界に設けられた文化的規定である。成人式ともいい,女性の場合は成女式と呼びわけることもある。…

※「一人前」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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