日本大百科全書(ニッポニカ) 「トム」の意味・わかりやすい解説
トム
とむ
René Thom
(1923―2002)
フランスの数学者。モンベリアールの生まれ。1946年パリの高等師範学校(エコール・ノルマル・シュペリュール)を卒業(この間、一時ドイツ軍に捕らえられたとも伝えられる)、さらにストラスブール大学で幾何学、とくにトポロジーを教授エーレスマンCharles Ehresmann(1905―1979)について研究した。1951年パリ大学より「球面上のファイバー空間とスティンロート積」の論文によって学位を得た。この結果を用いて、1954年にコボルディズム理論を確立し、その業績によって、1958年フィールズ賞を受賞した。1960年代からトポロジーとくに写像の特異点の理論、およびその数学以外の対象(とくに生物)への応用を目ざしてカタストロフィー理論を構築し、1972年に大著『構造安定性と形態形成』を刊行、学界を驚かせた。この著は、従来の数学的な著作とはいいがたいが、彼の自然哲学が、彼の数学を基礎として縦横に展開されている。ストラスブール大学教授を経て、パリの高等科学研究所教授を務めた。
[野口 廣]
『弥永昌吉、宇敷重広訳『構造安定性と形態理論』(1980・岩波書店)』