日本大百科全書(ニッポニカ) 「赤絵式」の意味・わかりやすい解説
赤絵式
あかえしき
古代ギリシア陶器の装飾様式の一つ。赤像式ともいう。紀元前6世紀末アテネの「アンドキデスの陶画家」の考案とされる。陶画の主題となる図像の部分を赤褐色の素地のままに残し、他の部分を黒く塗りつぶす。主題の図像の部分を黒く塗り、目や耳、衣の襞(ひだ)などの細部を赤褐色のままに残した黒絵式の技法とはまったく逆で、赤絵式では細部は筆で描かれるため、筆の濃淡、太線と細線のコントラストなどその表現が自由で生動的となり、人物の感情表現を可能とした。赤絵式の装飾は初め黒絵式と並行して用いられていたが、前6世紀末から前5世紀前半にかけてエウフロニオスやエウテュミデスらの傑出した陶画家が出て赤絵式を完成した。彼らに続いて赤絵式の装飾に健筆を振るった陶画家では、豊かな創造力をもって神話の世界を視覚化したソシアスの画家、マクロン、ブリュゴスの画家、酒宴の場や裸婦を流麗なタッチで描いたドゥリスやクレオフラデス、静寂と孤独のなかに人物の内面性を追求したベルリンの画家らがあげられる。しかし前5世紀後半以降、赤絵式陶器は陶画家の技量を示す作品としてよりも実用品、輸出品として量産、莫大(ばくだい)な数の赤絵式陶器がイタリア半島および地中海各地に輸出された。
[前田正明]