日本大百科全書(ニッポニカ) 「采女(能)」の意味・わかりやすい解説
采女(能)
うねめ
能の曲目。三番目物。五流現行曲。世阿弥(ぜあみ)作か。出典は『大和(やまと)物語』の「吾妹子(わぎもこ)が寝くたれ髪を猿沢の池の玉藻(たまも)と見るぞ悲しき」の歌を骨子とする。帝(みかど)の寵(ちょう)を失ったことをはかなみ、池に沈んだ采女の悲恋物語が、奈良の春景色や、月に鳴くホトトギスのイメージなどの自然と同化しているのも能の戯曲と表現の一つの特色である。前段は春日(かすが)神社参詣(さんけい)の僧(ワキ)に、里女(前シテ)が春日の由来を語り、自分は入水(じゅすい)の采女の亡霊と告げて消える。後段では僧の弔いにより成仏できる喜びと、采女の生活の思い出が静かに舞われる。水の中の舞を強調し、この曲の主題を水で統一した演出もある。
[増田正造]
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