日本大百科全書(ニッポニカ) 「量的遺伝」の意味・わかりやすい解説
量的遺伝
りょうてきいでん
quantitative inheritance
ヒトの身長や体重など量的、連続的に変化する形質の遺伝現象。量的形質の遺伝は、単一遺伝子による顕性の法則や分離の法則に従わず、雑種第一代(F1)では両親の中間値を示し、雑種第二代(F2)では、量的、連続的に変化する正規分布に近い頻度分布を示す。同じ作用をもつ多数の遺伝子(ポリジーン。相加遺伝子の一種)によって支配されると考えられる。ウサギの耳の長さは、顕性の3対の耳長遺伝子によって支配される形質で、この耳長遺伝子の数によって耳の長さが決まる。また、ニワトリの体重の変化やトウモロコシの穂の長さ、播種(はしゅ)から開花までの日数の多少なども量的遺伝をする。ヒトの皮膚の色の濃さは、メラニン合成の速度を支配するいくつかの遺伝子の量的変化によるものと考えられている。これらの遺伝子は、環境条件や紫外線による皮膚表面でのビタミンDの合成など外部環境要因の作用により影響を受ける。
[黒田行昭]
『駒井卓著『人類の遺伝学』(1966・培風館)』▽『飯野徹雄他著『遺伝』(1968・共立出版)』▽『J・F・クロー著、安田徳一訳『基礎集団遺伝学』(1989・培風館)』▽『ジョン・メイナード・スミス著、巌佐庸・原田祐子訳『進化遺伝学』(1995・産業図書)』▽『N・D・キャメロン著、鈴木啓一・内田宏・及川卓郎訳『最新家畜育種の基礎と展開』(2000・大学教育出版)』▽『徳永幸彦著『絵でわかる進化論』(2001・講談社)』