改訂新版 世界大百科事典 「金属クラスター化合物」の意味・わかりやすい解説
金属クラスター化合物 (きんぞくクラスターかごうぶつ)
metal cluster compound
金属イオンどうしが,金属間結合によって集まって一つの原子団(クラスターという)をつくっている部分をもつ化合物の総称。単にクラスター化合物ということもある。通常遷移金属,とくに第二,第三遷移金属の低酸化数ハロゲノ錯体あるいはカルボニル錯体などで多くみられる。たとえば塩化モリブデン(Ⅱ)MoCl2は,実際には[Mo6Cl8]4⁺の構造をもち,正八面体型のMo6の単位すなわちクラスターをもっているし(図1-a),塩化ニオブNb6Cl14ではやはりNb6のクラスターが存在する(図1-b)。さらに多くの種類がみられるのはカルボニル錯体であって,たとえば簡単なものでは,[Ir4(CO)12]の四面体型のIr4(図2-a),[Rh6(CO)16]の八面体型のRh6(図2-b)などのクラスターがあるが,複雑なものではたとえば[Rh13(CO)24H2]3⁻,[Rh14(CO)25]4⁻,[Rh15(CO)27]3⁻などは複雑な形のRh13(図2-c),Rh14(図2-d),Rh15(図2-e)などのクラスターが存在する。さらに上記のような同種原子による金属クラスターだけではなく,異種金属の入った[Os6Au(CO)20H2]⁻などのようなものも数多く知られている。
これらの金属クラスター化合物は,とくに最近になって注目されてきているが,これは構造的な興味からばかりではなく,とくに有機合成の各種触媒として,水素化,異性化,ヒドロホルミル化,環化,酸化,還元あるいは水素ガス転化反応などによく用いられるからであり,さらに各種の分野への発展が見込まれているからである。
執筆者:中原 勝儼
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報