有機化合物中の不飽和結合、たとえば炭素‐炭素二重結合や三重結合、あるいはカルボニル基、シアノ基のようなヘテロ原子を含む多重結合に水素を付加させる反応をいう。水素添加、あるいは水素付加hydrogen additionともいう( )。還元反応の一つである。多くの場合、飽和化合物が得られる。水素化によって分子が開裂する反応は水素化分解あるいは水素化開裂反応hydrogenolysisとよばれる。
水素化には、気体の分子状水素(H2)と触媒を用いる接触的水素化反応と、ヒドリド還元剤(水素化物還元剤)などを用いる化学的還元法がある。接触的水素化反応はさらに固体の触媒を用いて溶液中の基質を水素化する不均一系水素化と、溶媒に可溶な触媒を用いて同じ溶液中に基質と触媒を溶かして水素化を行う均一系水素化がある。
接触的水素化反応は二つの水素原子が同じ側から付加するcis(シス)付加反応であり、三重結合の水素化によりcis-アルケンが高い選択性で得られる。不均一系水素化に用いる触媒にはニッケル、白金、パラジウム、ロジウムなどの遷移金属が用いられる。ニッケル触媒としてはラネーニッケルのような合金触媒、漆原(うるしばら)ニッケルのような沈殿触媒も用いられる。白金触媒の例としてはヘキサクロロ白金(Ⅳ)酸に硝酸カリウムを加えると得られるアダムス触媒が有名である。貴金属触媒は担体につけて使うことが多く、担体として炭素あるいはアルミナなどが用いられる。
不均一系触媒のほかに、ウィルキンソン触媒Geoffrey Wilkinson(1966)や野依良治(のよりりょうじ)らによるBINAP(バイナップ)ルテニウム触媒(1986)など溶媒に可溶で均一系で使える錯体触媒が水素化に用いられている。均一系不斉錯体(ふせいさくたい)触媒は光学異性体の一方だけを選択的に合成するのに使われている。
ニッケル、白金などの金属触媒を用いて、加圧水素の雰囲気下で水素化を行うと、芳香環をシクロヘキサン環に水素化できる。たとえば、ベンゼンを水素化すると、3モルの水素H2が付加してシクロヘキサンC6H12になる。同様な水素化によりフェノールからはシクロヘキサノールが得られる。この化合物はナイロンの原料として有用である( )。
カルボニル基をアルコールにする水素化も金属触媒と分子状水素を用いる水素化によって行うことができる。しかし、カルボニル基のような極性基の水素化は、水素化アルミニウムリチウムLiAlH4などの金属水素化物を使うのが便利である。アルデヒド、ケトンの水素化による生成物はアルコールで、アルデヒドからは第一アルコール、ケトンからは第二アルコールが得られる。ニトリルやアミドを水素化アルミニウムリチウムで水素化すると第一アミンが生成する( )。
水素化可能な2種類の官能基のうち一方のみを水素化する反応を選択的水素化という。たとえば、水素化可能なニトロ基とアルデヒド基の両方をもつ化合物をテトラヒドロホウ酸ナトリウムNaBH4により還元すると、アルデヒド基はアルコールに還元されるが、ニトロ基は還元されずに残る。
炭素‐炭素三重結合をもつアルキンを強い条件下で水素化すると単結合のアルカンになるが、条件を適当に選んで水素化すると、反応を二重結合のアルケンの段階で止めることができる。担体つきパラジウム触媒などの金属触媒と分子状水素を用いる接触水素化の場合には、水素化により普通の化学反応による還元では得にくいcis-アルケンが得られる。三重結合を水素化して二重結合にする反応を部分水素化といい、この反応を行うにはリンドラー触媒のように活性を落としたパラジウム触媒が用いられる。選択的水素化は有機合成化学において非常に重要な反応である。
水素化反応は工業的にも重要な反応で、イソオクタンの製造、マーガリン・硬化油の製造、重油の水素化による改質などに用いられる。
[佐藤武雄・廣田 穰]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
水素添加,水素付加,水添ともいう.一般に,有機化合物の不飽和結合に水素を付加する反応をいう.
触媒としては,ニッケル,コバルト,白金,パラジウム,亜クロム酸銅などが用いられる.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
…まず,被覆管の片側に端栓を溶接した後に,ペレットを一列に並べて挿入する。管の中に湿分があると使用中に水素が発生し,被覆管の中に水素化物をつくり(これを水素化と呼ぶ)もれの原因となるので,湿分が残らないように温度を上げて乾燥させた後にヘリウムを封入し,反対側の端栓を溶接して燃料棒ができあがる。この燃料棒と集合体の部品とを組み立てて燃料集合体とする。…
※「水素化」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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