鉄ニトロシル化合物(読み)テツニトロシルカゴウブツ

化学辞典 第2版 「鉄ニトロシル化合物」の解説

鉄ニトロシル化合物
テツニトロシルカゴウブツ
iron nitrosyl compound

FeとNOだけからなる化合物は,従来,テトラニトロシル鉄Fe(NO)4と考えられていたN2O2架橋構造をもつ二量体 [Fe(NO)4]2 のみであるが,NOとともにほかの置換基も含む化合物が数多く存在する.【COを含むもの:明確な単量体Fe(NO)4は存在しないが,ジカルボニルジニトロシル鉄(0)[Fe(CO)2(NO)2][CAS 13682-74-1]は,Fe(CO)5とNOまたはNOClの反応で得られる.ひずんだ四面体型構造で,Fe-N1.77 Å,Fe-C1.84 Å,C-O1.15 Å,N-O1.12 Å.赤色結晶.融点18 ℃.COは,容易にPR3(R = アルキル基)などで置換される.【ハロゲンを含むもの:[Fe(NO)3X](X = Cl,Br,I)は,[Fe(CO)4X2]とNOの反応などでつくられる.不安定な濃褐色の結晶.【】S,SRを含むもの:1858年に見いだされたルッサン(Roussin)の赤塩,黒塩とよばれるものなどがある.ルッサン赤塩K2[Fe2S2(NO)4](テトラニトロシルジ-μ-チオキソジ鉄酸(2-)二カリウム[CAS 58204-17-4])は [Fe(NO)4]2KHSの反応で得られる.いわゆるルッサンの赤色エステル [FeSR(NO)2]2 は赤塩にヨウ化アルキル(RI)を作用させると得られる.濃赤色の反磁性結晶.ルッサン黒塩はM[Fe4S3(NO)7](ヘプタニトロシルトリ-μ3-チオキソテトラ鉄酸(1-)カリウム(M = K)[CAS 67527-75-7])で,Fe原子4個が四面体型に並び,その間をS原子3個が架橋している.加熱した亜硝酸アルカリと硫化アルカリとの混合水溶液と,FeSO4水溶液とを反応させてつくる.黒色の結晶.赤色塩よりは安定であるが,加熱すると分解する.【CNを含むもの:通称,ニトロプルシドナトリウムNa2[Fe(CN)5NO]・2H2O(ペンタシアノニトロシル鉄(Ⅲ)酸ナトリウム二水和物[CAS 13755-38-9])は,[Fe(CN)6]4- にNaNO2を反応させると得られる.赤色の結晶.SHと作用して紫色,チオールR-SHとは塩基性溶液中で赤紫色を呈するので検出反応に用いられる.【】褐輪反応(NO3の検出反応)の着色物質:試験管中の試料水溶液にFeSO4を加え,これに静かに濃硫酸を注いで2液層をつくると,NO3が存在すれば2液層の界面に褐色の輪を生じるが,この着色物質は [Fe(NO)(H2O)5]2+ と考えられる.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

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