日本大百科全書(ニッポニカ) 「置換基」の意味・わかりやすい解説
置換基
ちかんき
substituent
substitution group
有機化合物の水素原子を他の原子または原子団により置き換えた誘導体において、水素と置き換わった原子または原子団をさす一般的な呼称。
たとえば、ベンゼンの水素原子1個を塩素原子-Clで置き換えるとクロロベンゼン、カルボキシ基-COOHで置き換えるとベンゼンカルボン酸(安息香酸)、ニトロ基-NO2で置き換えるとニトロベンゼンになる。この場合、塩素原子、カルボキシ基、ニトロ基は置換基である。ベンゼン環のかわりに、ナフタレンやアントラセンなどの縮合芳香族、ピリジンやチオフェンなど複素芳香族の芳香環の水素原子を他の原子または原子団により置き換えた場合や、エタンのような脂肪族炭化水素やエチレン系、アセチレン系の炭化水素の水素を他の原子、原子団で置換した場合も、水素にかわる原子、原子団を置換基という。エタノール(エチルアルコール)はエタンの水素一つをヒドロキシ基で置換した化合物で、ここではヒドロキシ基が置換基である。ベンゼンの水素原子1個をメチル基で置き換えたメチルベンゼン(通称トルエン)の場合にも、メチル基を置換基とみなす。一般に、アルキル基などの炭化水素基は、置換を受ける骨格として取り扱われる場合と置換基として取り扱われる場合の両方がある。クロロ基、カルボキシ基、ニトロ基のようにヘテロ原子を含み極性や反応性などで特有な機能をもつ置換基を、アルキル基などの炭化水素基と対比して、官能基という。置換基の定義は相対的であり、化合物のどの部分を基本骨格とするかにより変わるので注意が必要である。
[廣田 穰]