カリウム(読み)かりうむ(英語表記)potassium 英語

日本大百科全書(ニッポニカ) 「カリウム」の意味・わかりやすい解説

カリウム
かりうむ
potassium 英語
Kalium ドイツ語

周期表第1族に属し、アルカリ金属元素の一つ。カリウムナトリウムとともに化合物として古くから人類によって利用されてきた。

歴史

植物体内にイオンとして存在しているので、これを焼いた灰の中には多量に含まれる。木灰ashを水で浸出した液(アルカリ液)が洗濯に有効であることは『旧約聖書』の時代から知られていた。この液を鉄製のるつぼpotで煮沸濃縮して得られる固形物はpotashとよばれ、ガラスやせっけんの製造に用いられた。これは不純な炭酸カリウムである。このpotashということばは、のちには他のカリウム塩やカ性カリ、すなわち水酸化カリウムにも用いられるようになった。カリウムの化合物はナトリウムの化合物と類似していて区別が明瞭(めいりょう)でなかったが、1761年ドイツのマルクグラーフは炎色反応によって両者を区別することに成功した。すなわち、カリウムは淡紫色を呈するのに対し、ナトリウムは黄色を呈する。

 カリウムの金属単体を単離することに初めて成功したのはイギリスのデービーである(1807)。彼は、高温で融解した水酸化カリウムを電解したところ、負極で明るい光と炎が生ずるのを観察した。電極において生成し、空気中で燃焼して炎と光を発するこの金属を新元素と認め、potash(この場合は水酸化カリウム)から得たことにちなみポタシウムpotassiumと命名した。カリウムというのはドイツ語名で、アラビア語のkaljan(植物の灰)またはヘブライ語のkal(軽い)に由来するといわれる。

[鳥居泰男]

存在

カリウムは他のアルカリ金属元素と同様にきわめて反応性に富んでいるので、自然界においてはつねに1価の陽イオンとして化合物の形で存在しており、単体としては産出しない。地殻中に比較的豊富に存在しており、アルカリ金属としてはナトリウムに次ぐ。不溶性アルミノケイ酸塩、たとえばカリ長石KAlSi3O8、カリ雲母(うんも)KH2Al3Si3O2のような形で岩石成分として分布している。岩石が風化すると、カリウムイオンはナトリウムイオンなどとともに遊離してくるが、ナトリウムイオンに比べ土壌中のコロイド物質に吸着されやすいので、雨水によっても比較的流出せずに残り、植物に吸収される。したがってカリウムは地殻中にはナトリウムとほぼ同量含まれているのに、海水中の存在量は30分の1ぐらいである。まれに地中から水溶性の塩化物、硫酸塩などの塩類として比較的純粋な形でみいだされる。これらは、かつて地球の大部分を覆っていた古代の海が蒸発濃縮された結果沈積したもので、多くは地下深い所に岩塩層と並んで鉱床をなしている。その最大のものはカナダのサスカチェワンシルビンカリ岩塩)の鉱床で、地下1キロメートルにあり、塩化カリウムの推定埋蔵量100億トンといわれ、3億年以上前に生成したものと考えられている。また、ドイツのシュタッスフルトの岩塩鉱床からカーナル石KCl・MgCl2・6H2Oが採掘されていることも有名である。

 カリウムはまた動植物の細胞内液にイオンとして存在し、グリコーゲンとよばれる多糖類やタンパク質の合成に関係しており、神経の情報伝達にも重要な役割をもっている。

[鳥居泰男]

製法

金属カリウムは、一般のアルカリ金属と同様に、塩化物や水酸化物の融解電解によって製造することもできる。しかし、安全性や経済性の点から、融解塩化カリウムを850℃でナトリウム蒸気で還元する方法が現在工業的には行われている。

  KCl+Na―→NaCl+K↑
この場合、カリウム蒸気を凝縮させて得た生成物は約1%のナトリウムを主要不純物として含んでいる。分別蒸留によって99.99%の純度にまで精製される。

[鳥居泰男]

性質

銀白色の軟らかい金属であるが、ナトリウムよりはやや硬く、低温ではもろくなる。ナイフで切ることができ、新しい面は金属光沢をしているが、空気中に放置すれば速やかに輝きを失う。これは、水分や酸素と反応して水酸化物や酸化物(過酸化物や超酸化物を含む)の膜ができるからである。比重が1より小さいので、この金属は水よりも軽い。軟らかいこと、軽いことが特徴で、この点では通常の金属の感じとはいささか違っている。カリウムの原子半径が通常の金属、たとえば鉄、銅、金などに比べて著しく大きいうえに、金属原子の充填(じゅうてん)方式のなかではもっとも隙間(すきま)の大きい体心立方格子をもつことによる。金、銀、銅には及ばないが、かなり大きな電気伝導性と熱伝導性をもっている。この金属元素はきわめて反応性に富んでおり、ハロゲン、硫黄(いおう)、リンなどを含むほとんどすべての電気的陰性の元素と直接反応し、K+イオンを含むイオン性化合物を生成する。ナトリウムよりも活性であり、より強い還元剤である。乾燥空気または酸素中で燃焼させると超酸化物を生ずる。水と激しく反応し、次の式のように水素を発生させる。

  2K+2H2O―→2KOH+H2
反応熱によってカリウム自身は融解し、水素が燃焼して発火するに至る。アルコールとも反応し、水素を発生させ、あとにアルコキシド(アルコール類のヒドロキシ基の水素を金属で置換した化合物。アルコラートともいう)を残す。

  2K+2C2H5OH―→2C2H5OK+H2
 ナトリウムなどと同様に液体アンモニアに溶解し、電気伝導性の青色溶液を与える。また、水銀に発熱しながら激しく溶けアマルガムを生ずる。

 カリウムの化合物はほとんどがイオン性であり、わずかの例外を除いて水に可溶である。難溶性塩としては、過塩素酸カリウムKClO4、ヘキサクロロ白金(Ⅳ)酸カリウムK2[PtCl6]、酒石酸水素カリウムKHC4H4O6、ヘキサフルオロケイ(Ⅳ)酸カリウムK2[SiF6]、ヘキサニトロコバルト(Ⅲ)酸カリウムK3[Co(NO2)6]などがあげられる。いずれも大きな陰イオンを含むのが特徴であり、重量分析に利用されるものもある。K+イオンは錯体を生成する傾向が弱く、アンモニア分子やシアン化物イオンなどを配位した錯体は水溶液中ではできない。しかし、大環状ポリエーテルまたはポリエステル系の化合物には水溶液中で安定な錯体(キレート)をつくるものが知られている。そのうちバリノマイシン、ノナクチンなどの天然物は生体中のK+イオンの伝送に関係しているようである。また各種のクラウンエーテルのような合成化合物は、そのキレートが有機溶媒に可溶な点で、K+イオンの抽出や定量に利用されている。

[鳥居泰男]

用途

金属カリウムは多くの点でナトリウムと類似しているが、製造上の困難のためにナトリウムよりはるかに高価である。したがってナトリウムに比べ工業材料としての利用範囲(還元剤、縮合剤、火薬原料)はあまり広くはない。しかし、一方ではカリウム特有の利用価値が認められ、その面での需要が広がっている。その一つはナトリウムとの合金であって、ナトリウムに近い比熱や熱伝導性をもちながら、室温を含む広い温度範囲で液状をとるものがつくられている。これは原子炉の冷却剤や高温温度計などに使用されている。また、超酸化物として酸素マスクに多量使用されている。

[鳥居泰男]

保存上の注意

金属カリウムを保存する場合には、石油などに浸し密栓しておくことが必要である。このようにしても、長い間にはしだいに酸化を受け過酸化物を伴っていることがあるので、使用の際にナイフなどで切るときには、摩擦による爆発に十分注意しなければならない。

[鳥居泰男]

人体とカリウム

細胞外液に多いナトリウムとは対照的に、カリウムは細胞内液に多く存在する。ナトリウムと同様、内液の酸塩基平衡の維持および浸透圧の調節、また、エネルギー代謝や神経興奮の伝達、筋肉の収縮などに関係し、いくつかの酵素の活性化とも関係がある。体内ではカルシウム、リンに次いで多く含まれる無機質で、主として植物性食品から補給される。野菜、いも、海藻、果物に多く含まれる。体内でのナトリウムとカリウムのバランスがたいせつで、食塩などの形でナトリウムを多くとったときは、カリウムの多い植物性食品を多くとる必要がある。非常に強い食塩制限をしているときに、カリウムの多い食品を多量にとったりすると、カリウムの過剰がおこることがある。カリウムの過剰症には、疲労、神経障害、不整脈などがある。食事からとるべき量については、「日本人の食事摂取基準」(厚生労働省)により、目安量と高血圧予防のための目標量が設定されている。

[河野友美・山口米子]

『丸茂文昭監修、北岡建樹編『電解質シリーズ1 K、酸塩基平衡異常の臨床』(1998・診断と治療社)』『糸川嘉則編『ミネラルの事典』(2003・朝倉書店)』『菱田明・佐々木敏監修『日本人の食事摂取基準2015年版――厚生労働省「日本人の食事摂取基準」策定検討会報告書』(2014・第一出版)』



カリウム(データノート)
かりうむでーたのーと

カリウム
 元素記号  K
 原子番号  19
 原子量   39.0983
 融点    63.65℃
 沸点    774℃
 比重    固体 0.862(測定温度20℃)
       液体 0.83(測定温度63℃)
 結晶系   体心
 元素存在度 宇宙 3240(第20位)
          (Si106個当りの原子数)
       地殻 2.09%(第8位)
       海水 (/mgl-1) 380

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「カリウム」の意味・わかりやすい解説

カリウム
potassium

元素記号 K ,原子番号 19,原子量 39.0983。天然にはカリウム 39 (存在比 93.10%) のほかカリウム 40,カリウム 41が存在し,カリウム 40は放射性同位体である。天然にはおもに長石,雲母などの成分として分布している。カリウムイオンは土壌中に吸着されて多量にかつ広く分布し,植物の灰中にも比較的多く含まれている。周期表1族に属し,アルカリ金属の1つである。イオン化エネルギーが小さく,1価の陽イオンをつくる。単体は軟らかい銀白色の金属。融点 63.65℃,比重 0.862。化学的には非常に活性で,水,酸素,酸と激しく反応する。水と反応すると水素を発生し,水酸化カリウムを生成する。活性水素をもつ有機化合物とも反応する。カリウム塩の合成,有機合成に使用される。またナトリウム-カリウムの合金は原子炉の冷却材としての用途がある。

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