鉄炭化物(読み)テツタンカブツ

化学辞典 第2版 「鉄炭化物」の解説

鉄炭化物
テツタンカブツ
iron carbide

鉄-炭素2元系の常圧における平衡状態では,炭素を固溶した鉄とグラファイトが存在するだけであるが,常圧下では準安定相として下記の鉄炭化物が生成されている.セメンタイト,ε-炭化物,χ-炭化物,Fe7C3.【】[別用語参照]セメンタイト】ε-炭化物:化学組成はFe2~3C.格子は六方晶系.鉄原子は最密六方充填をなし,格子定数a = 0.2752,c = 0.4353 nm炭素原子は鉄原子のつくる八面体すきま位置に不規則あるいは規則的に配列している.常温では強磁性で,キュリー点は380 ℃.鋼の低温焼戻しのときに析出する.【】χ-炭化物:化学組成はFe5C2.格子は単斜晶系.空間群はC 2/c.格子定数はa = 1.1562,b = 0.45727,c = 0.5086 nm,β = 97.75°.単位格子中に4分子を含む.常温では強磁性で,キュリー点は247 ℃.鉄を350 ℃ 以下で浸炭したり,ε-炭化物を380 ℃ 以上で加熱分解すると得られる.【】Fe7C3:格子は斜方晶系.空間群はPnma.格子定数はa = 0.4540,b = 0.6879,c = 1.1942 nm,単位格子中に4分子を含む.常温で強磁性で,キュリー点は430 ℃ である.鉄合金の炭化物としては多種類の炭化物が存在し,その鋼中での大きさ,分布形状などが鋼材性質を左右する.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

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