セメンタイト(読み)せめんたいと(英語表記)cementite

翻訳|cementite

日本大百科全書(ニッポニカ) 「セメンタイト」の意味・わかりやすい解説

セメンタイト
せめんたいと
cementite

鉄と炭素との化合物(Fe3C)はセメントのように硬いので、セメンタイトとよばれてきた。斜方晶系に属する結晶であり、融点は1250℃、比重7.4、ビッカース硬さ約1300。210℃以下で強磁性を示す。

 セメンタイトは鉄鋼材料の主要な構成相であり、その形態と含有量を適宜に制御することによって鉄鋼材料の性能が著しく改善される。たとえばピアノ線は、炭素濃度が0.8%の鋼を線引き加工したもので、繊維状のセメンタイト結晶が鉄結晶の中に細かく配列している。このピアノ線は強度がきわめて高いので、ワイヤロープなどに使用されている。

 セメンタイトの形態を粒状にすると、鋼の靭(じん)性が向上して、折れにくくなる。橋や車両などに使用されている鋼は、直径約0.3マイクロメートルの微細なセメンタイト粒子を鉄結晶中に分散させたものである。

 また白鋳鉄(はくちゅうてつ)は、融鉄に多量の炭素を溶かし、鋳型(いがた)に流し込んで凝固させたもので、全体の約50%がセメンタイトであり、高硬度部品の材料として使用されている。この白鋳鉄を高温で加熱すると、セメンタイトは不安定な化合物なので黒鉛と鉄とに分解する。この特性を利用して、鋳造の際に微量の球状化剤を加え、約30マイクロメートル直径の黒鉛を鉄結晶中に分散させたものが球状黒鉛鋳鉄であり、通常の鋳鉄よりもはるかに優れた靭性を示す。鉄の炭化物はセメンタイトだけではなく、六方晶系のイプシロン炭化物(Fe2C)なども知られている。

[西沢泰二]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「セメンタイト」の意味・わかりやすい解説

セメンタイト
cementite

鋳鉄や普通鋼に含まれている鉄の炭化物 Fe3C をいう。結晶の形は斜方晶系に属する。室温で HB 800程度のブリネル硬さをもつ。普通鋼は焼入れをしていない場合,このセメンタイトと極微量の炭素を固溶した鉄との二相混合物であるが,これら二つが層状に析出しているのをパーライトと称している。炭素を固溶する限度をこえると鉄中にパーライトが現れ,炭素の含有量が質量百分率で約 0.8%になると全域パーライトの状態になる。さらに炭素量を2%程度まで増やしていくと,パーライトのほかに片状のセメンタイトが現れるようになる。このセメンタイトはパーライトができる前に析出しているので初析セメンタイトという。炭素量を2%以上にするとセメンタイトの生成が困難になり状況によっては黒鉛の晶出もみられ,セメンタイトが存在しないこともある。

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