化学辞典 第2版 「鉛酸」の解説
鉛酸(塩)
ナマリサンエン
plumbic acid(plumbate)
鉛は両性のため,水酸化物Pb(OH)nはHnPbOnの酸とも考えられる.PbⅡの場合のH2PbⅡ O2は,亜ナマリ酸塩ともいい,PbⅣの場合は鉛酸という.鉛酸には,PbⅣ (OH)4に相当するオルト鉛酸H4PbO4のほかに,これからH2Oを失ったメタ鉛酸H3PbO3や2H2Oが加わったヘキサヒドロキソ鉛酸H2[Pb(OH)6]がある.オルト鉛酸(あまり安定でない)以外は固体を単離することは困難である.一方,これらの酸の塩は多くの安定なものが得られている.ただし,必ずしも単純な化学式で書かれているような独立したイオンが固体に含まれているとは限らない.むしろ,式は組成式で,実際は複酸化物構造のものが多い.【Ⅰ】オルト鉛(Ⅳ)酸塩:MⅠ4PbO4.MⅠ = Li,Csなどの塩は結晶中に独立した正四面体型の [PbO4]4- を含む.
(1)Li4PbO4(299.0).無色の斜方晶系結晶で,独立した正四面体型の [PbO4]4- を含む.Pb-O約2.06 Å.なおLiも4個のO原子で四面体型に囲まれている.湿った空気中でもかなり安定であるが,水溶液中では加水分解してPbO2になる.
(2)Ba2PbO4(257.17).黄色の正方晶系結晶.K2NiF4型構造.Pb-O約2.07,2.15 Å.密度約7.16 g cm-3.構造上,複酸化物であるから四酸化鉛(Ⅳ)二バリウムというほうが正しい.[CAS 12513-70-1]【Ⅱ】ヘキサヒドロキソ鉛(Ⅳ)酸塩:MⅠ2[Pb(OH)6].アルカリ金属塩などは,独立した正八面体型の [Pb(OH)6]2- を含む.Na2[Pb(OH)6](355.22)は,正八面体型の [Pb(OH)6]2- を含む.この酸イオンは,アルカリ性水溶液では溶存しうるが,中性の水では加水分解する.固体を加熱するとメタ塩のNa2PbO3になる.【Ⅲ】メタ鉛(Ⅳ)酸塩:MⅠ2PbO3.いずれも独立したPbO32-を含んではいない.
(1)Cs2PbO3(521.0).無色の斜方晶系結晶で,四角すい型のPbO5が,底面の1稜を各両側のPbO5と共有して鎖状につながっている.Pb-O約2.08,2.18 Å.水で分解する.K塩も同じ鎖状構造と考えられる.
(2)BaPbO3(392.5).黄色の斜方晶系結晶.立方晶系のものもある.ペロブスカイト型構造.Pb-O約2.15 Å,Ba-O約2.72~3.34 Å.構造上複酸化物であるから,三酸化鉛(Ⅳ)バリウムというほうが正しい.[CAS 12047-25-6]
(3)Ca塩も同構造と考えられるオレンジ色の結晶で,ガラスやマッチの製造で酸化剤に用いられる.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報