日本大百科全書(ニッポニカ) 「バリウム」の意味・わかりやすい解説
バリウム
ばりうむ
barium
周期表第2族に属し、アルカリ土類金属元素の一つ。化学的に活性であるため遊離して存在することはなく、重晶石BaSO4、毒重石BaCO3などとして産出する。またカルシウムに伴って広く地殻中に分布するが、その量ははるかに少ない。
[鳥居泰男]
歴史
今日、重晶石bariteとよばれる硫酸バリウムの鉱石は、17世紀初めイタリアのボローニャで発見されている。比重4.5で、通常塩類の鉱石の2倍ぐらい重いので、「重い」のギリシア語barysにちなんで名づけられた。一方、スウェーデンのK・W・シェーレは1774年に、軟マンガン鉱MnO2の中に酸化バリウム(barytaとよばれた)が含まれることをみいだしている。1808年、イギリスのH・デービーは、酸化水銀と酸化バリウムの湿った混合物を電解してバリウムのアマルガムを得、蒸留によって水銀を除去して金属バリウムを単離することに成功した。水銀をまったく含まない純粋なものは、1901年、ガンツA. A. Guntzによって水素化バリウムの熱分解を通して初めて得られた。元素としての名称バリウムは、バライトbariteあるいはバライタbarytaの成分であることに由来している。
[鳥居泰男]
製法
金属バリウムを電解法で直接的に得ることは困難であるので、主として蒸留冶金(やきん)によって製造される。すなわち、酸化バリウムを真空中約1200℃でアルミニウムやフェロシリコンで還元する。バリウムは蒸気となって出てくるので、これを冷却、凝縮させ、アルゴン気流中で再溶融する。塩化バリウムの水溶液を電解する方法もあるが、この場合でも陰極に水銀を用い、アマルガムの形で取り出す。これを減圧蒸留して大部分の水銀を除去したのち、水素気流中で加熱して水素化バリウムに変え、これを加熱分解して純粋な金属を得る。
[鳥居泰男]
性質
銀白色の軟らかい金属で、体心立方格子の構造をとる。アルカリ土類金属中でもっとも高い沸点をもっている。化学的性質はカルシウム、ストロンチウムとよく類似しているが、それらよりは活性である。空気中で熱すれば燃焼して酸化バリウムと少量の過酸化バリウムを生ずる。窒素に対する親和力はアルカリ土類金属元素中もっとも大きく、空気中の燃焼生成物にもかならず窒化物が含まれる。純粋な窒素気流中で熱すればBa3N2の組成の窒化物が生成する。加熱により水素と直接化合し、かなり安定な水素化物BaH2を与える。水と激しく反応して水酸化バリウムを与え、水素を発生する。また、アルコールとも反応し、バリウムアルコラートを生ずる。
Ba+2H2O→Ba(OH)2+H2
Ba+2C2H5OH→Ba(C2H5O)2+H2
黄緑色の炎色反応を示す。
[鳥居泰男]
用途
アルミニウムまたはマグネシウムの合金として真空管のゲッターに、ニッケルの合金として自動車の点火栓に、またカルシウム‐鉛の合金として車両用の軸受に使用される。なお、バリウムイオンは生体内では有毒であるから取扱いに注意を要する。また、X線造影剤として用いられるバリウム塩は硫酸バリウムである。
[鳥居泰男]
バリウム(データノート)
ばりうむでーたのーと
バリウム
元素記号 Ba
原子番号 56
原子量 137.33
融点 725℃
沸点 1640℃
比重 3.5(測定温度20℃)
結晶系 立方
元素存在度 宇宙 4.7(第41位)
(Si106個当りの原子数)
地殻 425ppm(第13位)
海水 2μg/dm3