マッチ(英語表記)match

翻訳|match

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「マッチ」の意味・わかりやすい解説

マッチ
match

細長い木片厚紙などの可燃物質の先端に,摩擦で発火する物質をつけた発火用具。発火する頭薬,火が燃え移りやすい引火性の物質,軸木からなる。現代マッチには,(1) どこにこすりつけても発火する摩擦マッチと,(2) 安全マッチがある。摩擦マッチの頭薬には,摩擦熱で発火するのに必要な化学物質がすべて含まれている。安全マッチの頭薬は摩擦マッチよりはるかに高温でなければ発火せず,また発火させるための側薬とこすり合わせる必要がある。マッチを発火させる物質としてよく用いられるのが,リン化合物である。摩擦マッチの頭薬と安全マッチの側薬に,この物質が含まれている。
1805年,パリでジャン・シャンセルが,塩素酸カリウムと砂糖とゴムを先端につけた木片を硫酸に浸すと発火することを発見した。 1828年にロンドンのサミュエル・ジョーンズが特許を取得した「プロメテウス・マッチ」は,酸を入れたガラス球の外側を発火性の合成物で覆ったもので,ガラス球をつぶすと包み紙に火がつく仕組みだった。初期のマッチはなかなか発火せず,たびたび大量の火花を噴き上げ,さらにきわめて不快な臭いを発した。摩擦マッチを最初に発明したのは,イギリスの化学者ジョン・ウォーカーだった。薬剤師でもあったウォーカーの帳簿には,1827年4月7日付で摩擦マッチの最初の売り上げが記録されている。ウォーカーの摩擦マッチ「フリクション・ライツ」は先端部に塩化カリウム硫化アンチモンを塗布したもので,二つ折りにした紙やすりに挟んでこすると発火した。ウォーカーはこの商品の特許を取得しなかった。 1831年に黄リン (白リン) を加えた製法が開発されると,この画期的製法はたちまち広まった。 1835年には,塩化カリウムの代わりに酸化鉛を用い,静かに発火するマッチが実現した。 1845年,オーストリアの化学者アントン・フォン・シュロッターが,自然発火せず毒性のない赤リンを発見,これにより,発火物質を頭薬と側薬に分けた安全マッチが開発された。この手法の特許は,1855年にスウェーデンの J.E.ルンドストレームが取得している。安全マッチが広く受け入れられる一方,黄リンマッチの需要も続いていたが,19世紀末,黄リンマッチ工場の作業員に重篤な中毒が認められ,20世紀に入ると黄リンはほとんどの地域で禁止された。現代の安全マッチの多くは,頭薬に硫化アンチモンと,塩化カリウムなどの酸化物質,そして硫黄または木炭を使用し,側薬に赤リンを使用している。安全マッチ以外のマッチは通常,頭薬に黄リンよりはるかに毒性の低い硫化リンを使用している。

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