日本歴史地名大系 「長禄年中江戸絵図」の解説
長禄年中江戸絵図
ちようろくねんじゆうえどえず
五三・五×六八・五センチ 写図彩色 都立中央図書館蔵
解説 三井文庫・港区立みなと図書館・東京都公文書館などにも所蔵され、標題は長禄江戸図・長禄年間江戸之図・長禄二己未年二月江戸図・長禄三己卯年江戸絵図などがあるが、同一の図で大小があり、無彩のものや写図を復刻したものを含む擬古図と考えられる。「江戸古地図考」(中神守節、享和三年以後)、「玄同放言」(滝沢馬琴、文政元年)、江戸の古代地理(吉田東伍「歴史地理」)、「地図つれづれ草」(金関義則、昭和三七年)、「江戸図の歴史」(飯田龍一・俵元昭、昭和六三年)などが指摘したように、安永七年以後突然に写が出現し古い伝写がないこと、日比谷入江・江戸前島などがなく、逆に溜池が慶長一一年完成後の形に描かれているなど、地形が近代の地質調査にあまりに違背すること、北条氏所領役帳の地名によく一致しその干支に誤写したものがあることなどから、元来同役帳の地名を判断しようと作製された擬古図永禄年中江戸之図から、偽図とするほどの作為もないまま転写され、年号の類似で太田道灌築城に付会、道灌の人気で転写が続出したと判断される。逆に下って元亀天正年中江戸辺之図も転写し表題を変えたとみられる。おりからの「御府内風土記」編修や沿革図書の時代遡及・回顧傾向と表裏して、好事的に行われた一結果とみるべきものである。
出典 平凡社「日本歴史地名大系」日本歴史地名大系について 情報