歴史地理学者。新潟県北蒲原郡保田村(現阿賀野市,旧安田町)に生まれる。旗野木七の三男,のち吉田家を継いだ。新潟英語学校に一時学んだほか,学校教育は全然受けず,独学で小学校教員となった。24歳のとき那珂通世の《年代考》を読み,史学のとりことなり,翌年から2年間北海道に身をひそめ,歴史地理の研究に没頭した。北海道から《史学雑誌》に寄稿した《古代半島興廃概考》が学者の注意を引き,読売新聞社から招かれて上京した。落後生という筆名で続々史論を発表し注目された。日清戦争に従軍して,このころから,日本の地名の変遷を記した研究がないことに気付き,独力で多くの困難と闘いながら,13年かかって《大日本地名辞書》11冊を完成した(1907)。原稿の厚さ5mに及ぶ質量とも古今未曾有の大地誌で,今日でも刊行されている。早稲田大学教授となり,のち同校理事を兼ねたが,学内の抗争に巻き込まれ,その疲労のため没した。
歴史地理学のほか日本音楽史にも精通し,とくに能楽の造詣が深く,1908年《世子六十以後申楽談儀(ぜしろくじゆういごさるがくだんぎ)》(《申楽談儀》)を校訂,これが世阿弥伝書の発見につながる契機となった。09年,吉田が《花伝書》と命名した《風姿花伝》をはじめ,当時発見された世阿弥の著書16部を収めた《世阿弥十六部集》を校注,〈吉田本〉と呼ばれる。これは従来の観阿弥・世阿弥像を一新させ,近代能楽研究の出発点となった。ついで《禅竹集》を公刊。晩年は宴曲(早歌(そうが))研究に努め,東儀鉄笛(とうぎてつてき)の協力で宴曲再興を試み,私財を投じて《宴曲全集》(1917)を公刊して研究の基礎を築いた。
執筆者:辻田 右左男+西野 春雄
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明治期の歴史地理学者 早稲田大学教授。
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明治・大正期の歴史学者。文学博士。元治(げんじ)元年4月10日越後(えちご)国(新潟県)北蒲原(きたかんばら)郡保田(やすだ)町(現阿賀野(あがの)市)に生まれる。新潟学校中学部を中退後、独学。小学校教員ののち、一時北海道に渡ったが、1891年(明治24)上京して『読売新聞』記者となった。記者のかたわら『日韓古史断』『徳川政教考』を出版し、歴史家としての地位を固めた。1901年(明治34)東京専門学校(翌年早稲田(わせだ)大学と改称)文学部史学科講師となり、以後、国史、日本地誌、明治史、日本地理を担当した。『大日本地名辞書』(初版全11冊・1900~07、続篇(へん)1909)が代表著作で、ほかに『庄園(しょうえん)制度之大要』『倒叙日本史』『能楽古典世阿弥(ぜあみ)十六部集』などがあり、社会経済史、生活史や通史叙述の先駆者の一人となった。早稲田大学教授となったのち、さらに維持員、理事に就任したが、大正7年1月22日尿毒症のため急逝した。
[佐藤能丸]
『永原慶二・鹿野政直編著『日本の歴史家』(1976・日本評論社)』
(松島榮一)
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1864.4.14~1918.1.22
明治・大正期の歴史地理学者。日本の歴史地理学の草分け的存在。越後国生れ。独学で郷里の新潟県北蒲原郡安田町の小学校教員になる。のち北海道へわたって鮭漁業に従事したが,その間も独学で研究を続けた。1891年(明治24)北海道からの投稿論文が歴史学界で認められた。その後,読売新聞社をへて,東京専門学校講師,早稲田大学史学科教授を歴任。著書「大日本地名辞書」。
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…世阿弥が父観阿弥の遺訓に基づいてまとめた最初の能楽論。正しい書名は《風姿花伝》あるいは《花伝》であるが,1909年吉田東伍によって翻刻されたいわゆる吉田本が《花伝書》と命名して以来,この名で知られている。ただし,本来,〈花伝書〉とは室町末期以来の能伝書一般あるいは華道の伝書を意味した呼称であり,また世阿弥の遺著に仮託されてきた《八帖花伝書》の題名でもあって,それを吉田本が本書に転用したのは必ずしも妥当な処置とはいえない。…
…世阿弥後年の能楽論はそのほとんどが本書の説に胚胎(はいたい)しており,数ある世阿弥伝書中,最も基本的,かつ代表的著作と評してよい。1909年,吉田東伍により,初めて翻刻・公刊された。【中村 格】。…
※「吉田東伍」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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