阿部定事件(読み)あべさだじけん

改訂新版 世界大百科事典 「阿部定事件」の意味・わかりやすい解説

阿部定事件 (あべさだじけん)

1936年5月18日,東京の荒川区尾久町(現,東尾久)の三業地内の待合まさきで,中野区新井町で小料理店を経営していた石田吉蔵が,石田の店の女中をしていた阿部定(当時31歳)と数日間を過ごし,情痴の果てに殺された。殺した阿部定は血文字を残し,男根を切りとって逃走したので,猟奇的な怪事件としてジャーナリズムが大きく報道した。右翼青年将校が重臣顕官などを暗殺したクーデタである二・二六事件のあとなので,阿部定事件は国民の気分転換に役立てられたのである。阿部定は20日に品川駅近くの旅館に潜伏中捕らえられた。少女時代から男好きでいわゆる不良少女だった阿部定は芸者女郎私娼の生活を転々として犯行に至ったのである。太平洋戦争中に刑期を終えた阿部定は出所後料亭などで働いていたが,75年ごろから消息がわからなくなった。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「阿部定事件」の意味・わかりやすい解説

阿部定事件
あべさだじけん

昭和初期の猟奇事件。 1936年5月 18日,東京荒川尾久の待合「まさき」に泊っていた阿部定は,同宿の料理屋経営石田吉蔵を細紐で殺し,男の大腿に血で「定・吉二人」と書き,男性器を切断,所持したまま逃走。同月 20日午後5時半,品川駅前の旅館に偽名で泊っているところを高輪署員に逮捕された。軍国主義と右翼テロの重苦しい時代風潮のなかで人間臭い猟奇事件として話題をさらった。

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