私娼(読み)シショウ

デジタル大辞泉 「私娼」の意味・読み・例文・類語

し‐しょう〔‐シヤウ〕【私×娼】

公娼制度の認められていた時代に、公認されずに営業した売春婦。⇔公娼
[類語]遊女女郎娼婦公娼娼妓遊び女浮かれ女飯盛り女湯女酌婦夜鷹比丘尼

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精選版 日本国語大辞典 「私娼」の意味・読み・例文・類語

し‐しょう‥シャウ【私娼】

  1. 〘 名詞 〙 公の許可を受けていない売春婦。⇔公娼(こうしょう)
    1. [初出の実例]「公娼の害は寧ろ私娼の害よりも薄し」(出典:風俗画報‐二三五号(1901)論説)

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改訂新版 世界大百科事典 「私娼」の意味・わかりやすい解説

私娼 (ししょう)

政治権力が承認する公娼に対し,それ以外の売春婦を私娼という。一般には公娼制度下における秘密売春婦をさすが,公娼制をとらない国の売春婦も分類上は私娼に属する。ただし,売春が完全に放任された状態にないかぎり,公娼のように公然と売春できず,つねに隠れた営業であることを特色とする。しかも,営業のためには客を迎えやすい受入体制をつくる必要があり,飲食店などなんらかの正業に従事する形で偽装していることが多い。

日本古代~中世の売春婦としては,《万葉集》に出てくる遊行女婦(あそびめ)をはじめ,浮れ女,傀儡女(くぐつめ),白拍子(しらびようし)などが知られているが,詳細には不明なことが多く,いわば私娼前史というべきものであろう。私娼史としては,公娼制が明確になる16世紀後半以後が主要な活動期となる。豊臣秀吉に始まる遊郭設置は,市中に散在する娼家を集団居住させるという方法によるものであり,娼家のない所へ新設したものでない。この点に,私娼が市中に発生しうる条件が残っているといえる。もちろん,私娼の存在は統制違反であるから,発見すれば営業を停止させ,あるいは奴女郎(やつこじよろう)として遊郭へ強制移住させることがあった。その最大の事例は,湯女(ゆな)の吉原への収容である。しかし,このような監視取締りはむしろ珍しく,幕府の公娼制対策はきわめて不徹底であった。したがって各地に多くの私娼が出現し,なかには堂々と営業を続けて,公娼をしのぐほどのものも珍しくはなかった。表面上は公娼制堅持の幕府にとって,私娼はすべて隠売女(かくしばいじよ)であったが,法令に出てくる名称だけでも風呂屋女,茶屋女,茶立女(ちやたておんな),給仕女,女踊子,綿摘(わたつみ),比丘尼(びくに),芸者などがあり,その存在を見過ごせなかった事情を物語っている。実際の私娼の名称は,俗称を含めてはるかに多く,表向きの職業や居住地名にちなんで命名されている。それらの私娼を営業形態によって大別すれば,茶屋,料理屋などの飲食店を中心として小遊郭を形成する居娼型と,踊子のように顧客の方へ出向く出張型と,街頭で誘客する街娼型とに分かれる。居娼型を中心とする私娼街を江戸で岡場所と総称したが,1都市1遊郭の公娼では規模,交通,価格などで応じきれない客の需要を満たすために続出したものであった。このうち芸者は最も勢力を拡大し遊郭を衰退させるほどであった。

 明治以後は,芸者が飛躍的に増大しその私娼性も高くなったが,また新しい私娼が次々に出現した。高等内侍(こうとうないし),ちゃぶ屋女,楊弓場や新聞縦覧所の女などのほか,とくに銘酒屋などに抱えられた酌婦(しやくふ)は,娼妓と芸妓との中間的存在の準娼妓として政府みずからが認めた私娼であり,売春に対する政府の認識を示す好例といえよう。街娼にもヨーロッパ風の新しいタイプが現れ,大正以後はカフェーの女給が急激に進出した。第2次大戦後は,パンパンガールと呼ばれた街娼が私娼の代表となったことが注目される。同時に,1946年の公娼制廃止と58年の売春防止法の実施にもかかわらず,売春は決定的な打撃を受けることなく,むしろ私娼は活発化した。戦前からの芸者や前記の街娼のほか,女給はホステスと名を変えて,バーのほかキャバレーやサロンに職場を拡大し,コールガール,雇仲居(やとな),デートクラブのガイド女,パンマ(パンパン的なあんまの略称)など枚挙にいとまがない。70年以後は個室付き浴場につとめる女性が中心的存在となったが,私娼の多様化はさらに進んでいる。それを取締りから逃れる偽装手段ともいうが,宣伝的趣向ととれる。なぜなら国家権力が本気で私娼を取り締まろうとするなら,これらが偽装であることは明白だからである。

 最近は,私娼の表面上の職業が芸者やホステスなどの水商売女を主流としながらも,主婦,OL(女子事務員),学生などのセミ専業ないししろうとアルバイトが増加し,貧困よりも遊楽のために私娼となり,非行とも深く関係していることなどが報告されている。東南アジアを中心とする外国人女性の進出も一つの傾向である。しかし,管理売春から脱却し,私娼が自由意志で売春に従事しているとはいい難い。
街娼 →公娼 →売春
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「私娼」の意味・わかりやすい解説

私娼
ししょう

公(おおやけ)の許可なく営業する売春婦のこと。過去においては、売春を公認され当局の保護を受けていた公娼に対して、もぐり的存在の売春婦をさす。公娼制が世界的に廃止された現在では、登録して警察あるいは保健所の定期的検診管理を受けている売春婦に対し、その管理も受けていない未登録の隠れた売春婦を私娼とよぶ。ただし、売春禁止法を設けている各国でも、社会的必要悪として登録と検診の管理のもとに売春を許容している国と、日本のようにいっさい許容しない国とがある(わが国では売春防止法)。この後者の場合は、売春婦はすべて私娼ということになろう。

 歴史的には、バビロン、古代エジプト、古代インドの昔から現在に至るまで、売春の歴史とともに私娼は存続している。公娼制が遊廓(ゆうかく)的集娼制度の形をとった国々や時代では、その制度から逃れるため、また国家や領主が売春に課している税金払いを免れるため、あるいは雇い主から搾取されるのを嫌って、私娼ができた。したがって当局は税収秩序と公娼業者保護のため、しきりに私娼狩りと取締りを行った。これに対し私娼側は売春を偽装した。これを日本の例でみれば、公娼制実施直後は湯女(ゆな)、茶汲女(ちゃくみおんな)、踊り子などの表面の職業を掲げ、裏で売春をする私娼が増えた。さらに、徳川幕府も明治政府も売春対策が緩やかであったため、宿場の飯盛女(めしもりおんな)や芸者、酌婦(しゃくふ)などという名で私娼が公然と売春をしていたし、それを営業とする業者が栄え、世間ではそれを岡(おか)場所として認めていたわけである。同様に最近でも特殊浴場のように偽装売春をしているところがある。江戸時代には、私娼は捕らえて「奴(やっこ)」として公娼に強制編入するという法律があり、現代では売春防止法がありながら、いずれももぐり営業の勢いに押しまくられている。こうした傾向は日本だけではない。

 ここに私娼の問題のむずかしさがある。すなわち、前述のように売春禁止法を設けていても、登録と検診管理で性病伝播(でんぱ)防止をするのがよいか、売春禁止法がある以上は売春を認めず、もぐりの私娼の検診管理もしないでいる状態がよいか。後者には、弱い立場の私娼を庇護(ひご)すると称するヒモの搾取の問題もあろう。また、性取引にしか収入の道のない女性が、商売としてあるいは内職として私娼となってきた歴史的社会的現実の問題も、直視しなければなるまい。

[深作光貞]

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普及版 字通 「私娼」の読み・字形・画数・意味

【私娼】ししよう

売婦。

字通「私」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の私娼の言及

【赤線・青線】より

…太平洋戦争中までは,明治以来,許可された売春婦すなわち公娼を置いて売春をさせる店を一区域内に集めて遊郭といった。黙認されている私娼を集めて売春させる店は明治中期から銘酒屋と称して集落を作らされた。遊郭の建物は大きかったが,銘酒屋は3部屋ぐらいの小住宅の形式であった。…

※「私娼」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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