雁の草子(読み)かりのそうし

改訂新版 世界大百科事典 「雁の草子」の意味・わかりやすい解説

雁の草子 (かりのそうし)

中世の小説。著者不明。京都大学に1602年(慶長7)書写の無題の白描絵巻1巻が伝わるのみで,成立年代も不詳。題は近代命名。身よりのない姫と男に姿を変えた雁との恋物語の佳編で,《鶴の草紙》《鼠の草紙》などと同様の異類物語の一つ。名月のころ,たよりないわが身を嘆き石山観音に参籠した女の前に狩装束の男が現れる。2人は契りを結ぶようになるが,春になると男は帰郷帰雁)せねばならず,恋は悲恋に終わる。やがて1羽の雁が女のもとに男の死を伝え(雁信),女は無常を感じて出家往生を遂げ,物語は次の歌で結ばれる。〈頼みつる稲葉の枯れて露の間のかかるはかなき仮の世(雁の夜)の夢〉。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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