往生(読み)オウジョウ

デジタル大辞泉 「往生」の意味・読み・例文・類語

おう‐じょう〔ワウジヤウ〕【往生】

[名](スル)
仏語。現世を去って仏の浄土に生まれること。特に、極楽浄土って生まれ変わること。
死ぬこと。「大往生を遂げる」
あきらめて、行動などをやめ、おとなしくすること。「もう観念して、往生しろよ」
どうにもしようがなく、困り果てること。閉口。「自転車がパンクして往生した」
圧状おうじょう2」に同じ。「無理往生
[類語](2死ぬ死亡死去死没永逝長逝永眠逝去他界物故絶息絶命大往生お陀仏死する辞世成仏昇天崩御薨去卒去瞑目落命急逝夭折夭逝亡くなる没する果てる眠るめいするたおれる事切れる身罷みまか先立つ旅立つ急死する頓死とんしする横死する憤死する息を引き取る冷たくなるえなくなる世を去る帰らぬ人となる不帰の客となる死出の旅に出る亡き数に入る鬼籍に入る幽明さかいことにする黄泉こうせんの客となる命を落とす人死に物化まかくたばる絶え入る消え入るはかなくなる絶え果てる空しくなる仏になる朽ち果てる失命夭死臨終ぽっくりころり突然死即死/(3ぎゃふんお手上げ諦める思い切る断念観念諦念ていねん諦めギブアップくじける降参閉口辟易へきえき屈伏シャッポを脱ぐ途方に暮れる始末に負えない手に負えない手も足も出ないへこたれる参る/(4難渋手詰まりてこずる苦労困る弱る参るきゅうするこうずる苦しむ困り果てる困りきる困りぬく困却する難儀する難渋なんじゅうする閉口する困惑する当惑する途方に暮れる手を焼く手に余る持て余す手に負えない手が付けられない手が掛かる世話が焼ける始末に負えない始末が悪い・どうにもならない・如何ともしがたい・度し難い

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精選版 日本国語大辞典 「往生」の意味・読み・例文・類語

おう‐じょうワウジャウ【往生】

  1. 〘 名詞 〙 仏語。
  2. 現世を去って、他の仏の浄土に生まれること。特に、極楽浄土に往って蓮華の中に生まれ変わること。→化生(けしょう)
    1. [初出の実例]「不孝の衆生は、必ず地獄に堕ち、父母に孝養すれば、浄土に往生す」(出典:日本霊異記(810‐824)上)
    2. 「当知、応苦海生浄土只在今生」(出典:往生要集(984‐985)大文一)
    3. [その他の文献]〔無量寿経‐下〕
  3. 現世を去って彌勒菩薩兜率天(とそつてん)観世音菩薩補陀落(ふだらく)世界などに生まれること。生天(しょうてん)
    1. [初出の実例]「畢罪苦已、当生兜率天上」(出典:大日本国法華経験記(1040‐44頃)下)
  4. 現世で彌陀の願力によって真実不退の信心を得ること。
    1. [初出の実例]「即得往生後念即生。即時入必定。文名必定菩薩也」(出典:愚禿鈔(1255)上)
  5. 現世で彌陀の浄土に生まれることが約束される即身成仏のこと。
    1. [初出の実例]「韋提月蓋遂現身於往生」(出典:五輪九字明秘密釈(1141‐43))
  6. この世を去ること。死ぬこと。
    1. [初出の実例]「若き侍わうじゃうとて、あれに見えたる新しき卒塔婆の立たる御墓こそ、そにて有し」(出典:仮名草子・竹斎(1621‐23)上)
    2. 「それで思ひおく事なし、迷はず往生いたします」(出典:歌舞伎・三人吉三廓初買(1860)六幕)
  7. 悟ること。
    1. [初出の実例]「一日も早く往生いたさんと、世界の物事が遅れてをるから、筆先でいつも同じ事を気を附るぞよ」(出典:大本神諭‐火之巻(1920)〈出口ナオ〉年月日未詳)
  8. すっかりあきらめ、行動をやめること。
    1. [初出の実例]「かたりにあったとおもって往生(ワウジャウ)して払ひやせう」(出典:滑稽本東海道中膝栗毛(1802‐09)三)
  9. どうにもしようがなくなって、困ること。閉口。困却。
    1. [初出の実例]「いっさいしゅじゅかけとりにほどこしたいと思ふぼだいしんはあれど、おてらがわうじゃうなんまみだぶつ、ちとあんらくこくにはむつかしうござるて」(出典:滑稽本・大千世界楽屋探(1817)口絵)
    2. 「いやですと云へるもんでもなし、往生してたところが、幸ひまア嬢(とう)さんが」(出典:家族会議(1935)〈横光利一〉)
  10. 寝ること。
    1. [初出の実例]「サァおしゅんこちらもここに往生いたそ。アイとおしゅんが共々に暫し此世を仮蒲団」(出典:浄瑠璃・近頃河原達引(おしゅん伝兵衛)(1785)中)
  11. おうじょう(圧状)

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改訂新版 世界大百科事典 「往生」の意味・わかりやすい解説

往生 (おうじょう)

この世で命をおえたのち,他の世界に往(い)って生(しよう)を受けること。とくに念仏の功徳(くどく)によって,臨終のとき阿弥陀仏の来迎にあずかり,阿弥陀仏の国土である西方の極楽浄土に往き生まれること。往生を願うことを願生,願往生といい,往生する人を往生人という。往生を願う浄土の種類によって極楽往生(阿弥陀仏の極楽浄土に往生すること),兜率天(とそつてん)往生(弥勒菩薩の兜率天に往生すること),補陀落(ふだらく)往生(観音菩薩の補陀落山(せん)に往生すること),浄瑠璃(じようるり)往生(薬師如来の浄瑠璃世界に往生すること),そのほか釈迦の霊山(りようぜん)および無勝荘厳(むしようそうごん)国に往生するもの,毘盧遮那(びるしやな)仏の蓮華蔵(れんげぞう)世界に往生するものなどに分けられる。また,浄土に往生するための方法として念仏往生(阿弥陀仏のみ名を称えることによって往生する),諸行(しよぎよう)往生(念仏以外の諸善行(ぜんぎよう)により往生する),助念(じよねん)往生(念仏の助けとして諸善行を修めて往生する),聞名(もんみよう)往生(仏の名を聞き信じて往生する)などがある。また特異な往生の方法として,自然な死期をまたずに焼身,入水,埋身といった自殺的行為により往生するものがあり,これらを異相往生という。日本で古くより広く信仰されたのは,浄土教に説く極楽往生である。奈良時代における極楽往生観は死者に対して縁者がその冥福を祈り,死者が極楽浄土に往生することを願うという,追善的な性格を有するものであった。平安時代中・末期に至って,律令体制の動揺から生じた社会秩序の混乱に,末法思想による末世の到来という精神的不安が重なって,人々は現世を穢土(えど)(穢れた国土)と観ずるようになり,来世に安らぎを求めるようになっていった。死者の追善ではなく,自身が極楽に往生できることを願ったのである。この願望から人々の間で,阿弥陀仏のはたらきとしての来迎引接(らいごういんじよう)(阿弥陀仏が臨終に来迎して,浄土へ引導接取すること)が強く想念された。来迎引接(摂)を絵画化したのが来迎図であり,儀礼化したのが迎講や来迎会である。立形の阿弥陀仏像が造られ,法然の教団では重視された。《観無量寿経》に極楽浄土に往生するものに9等の段階(九品(くぼん)。上品,中品,下品のそれぞれに上生,中生,下生の3等がある)が説かれ,どのような悪人でも称名によって下品下生者となれるとあるので,下層社会でも往生願生者を広く育てた。《日本往生極楽記》《続本朝往生伝》などの〈往生伝〉にはさまざまな往生人とその信仰生活が記されている。鎌倉時代に入ると,法然,親鸞などの新仏教の教祖たちにより他力本願悪人正機,女人往生などの思想が打ち出され,浄土教帰依者は社会的身分,職業に関係なく急増した。これ以降,日本人の来世観に極楽往生の観念が定着していった。しかし往生が死を契機として説かれていたため,後世その意味が転用され,〈この世を去ること,死ぬこと〉〈困り果てること,閉口すること〉を,〈往生する〉というようになった。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「往生」の意味・わかりやすい解説

往生
おうじょう

仏教において、死によってこの穢(けが)れた世を去り、仏、菩薩(ぼさつ)の浄土(じょうど)に生まれることをいうが、通常は阿弥陀仏(あみだぶつ)の極楽(ごくらく)浄土に生まれることをさす。浄土教ではこの極楽往生の思想が中心となっている。阿弥陀仏の願(がん)には、往生に関する第十八、第十九、第二十の三願があり、なかでも第十八願は信心と念仏の数に触れ、第十九願は功徳(くどく)を積んだ念仏者の臨終(りんじゅう)に仏が迎えにくることを誓っているところから、古来注目されてきたが、日本では平安中期以降、臨終来迎(らいごう)の風潮が高まり、臨終正念が重視された。法然(ほうねん)(源空(げんくう))に至って第十八願の念仏の易行(いぎょう)が強調され、また親鸞(しんらん)ではとくに信心が往生の正因とされた結果、彼独自の回向(えこう)思想と相まって、この世で仏から真実の信心を賜ったそのときをさして往生ともよぶに至っている。

[石田瑞麿]

『石田瑞麿著『往生の思想』(1968・平楽寺書店)』

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百科事典マイペディア 「往生」の意味・わかりやすい解説

往生【おうじょう】

一般に念仏の功徳によって,臨終のとき阿弥陀仏の来迎に預かり,西方の極楽浄土に生まれること。平安時代後期に社会不安や末法(まっぽう)思想などから,現世を穢土(えど)と観ずるようになった人々は来世に安らぎを求めるようになった。往生人とその信仰生活について記された〈往生伝〉が多く編まれ,のちの日本人の来世観にも強い影響を与えた。なお浄土の種類に補陀落(ふだらく)往生・浄瑠璃(じょうるり)往生,往生の方法も善行を積んでの諸行往生から自殺的行為による異相往生までが説かれた。のち転用され〈死ぬこと〉〈困り果てること〉を往生といった。
→関連項目悪人正機説

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「往生」の解説

往生
おうじょう

この世の命が終わって,ほかの世界に生まれること。とくに浄土思想の発展・流行によって,この穢土(えど)を離れ浄土に往き生まれることをいう。その場合の往生浄土は,輪廻(りんね)をこえて仏の世界にいたる意味をもっている。多種の浄土が説かれ,往生思想もそれにより多様で,おもなものに兜率天(とそつてん)往生・西方(極楽)往生などがあった。しかし,阿弥陀信仰の盛行により,往生とは極楽往生のこととみなされるようになった。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「往生」の意味・わかりやすい解説

往生
おうじょう

死後安楽な清浄真実の世界に生れること。阿弥陀仏の仏国土である西方極楽浄土に往生しようというもの,あるいは薬師如来の浄瑠璃の世界,あるいは弥勒の住む兜率天 (とそつてん) に生れようとするものなどがある。一般に死ぬこと,あきらめることを往生ともいう。

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普及版 字通 「往生」の読み・字形・画数・意味

【往生】おうじよう

死ぬ。

字通「往」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の往生の言及

【臨終】より

…死を迎えることの意味を説いた古い文献としては,エジプトやチベットで作られた〈死者の書〉が知られているが,それはかならずしも臨終時の問題に焦点を合わせたものではない。これに対して西欧では,中世末に〈アルス・モリエンディ(往生術)〉として知られる文献が書かれ,臨終を迎える者のための心得が説かれた。すなわち死の床にはかならず悪魔(サタン)が介入し,良心の錯乱と種々の苦しみをひきおこす。…

※「往生」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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