改訂新版 世界大百科事典 「頼朝の死」の意味・わかりやすい解説
頼朝の死 (よりとものし)
戯曲。1幕2場。真山青果作。1932年4月東京歌舞伎座で初演。頼家を2世市川左団次,尼御台政子を5世中村歌右衛門,重保を6世市川寿美蔵(のちの3世寿海),小周防を2世市川松蔦という配役。第1場〈鎌倉法華堂の門前〉,第2場〈鎌倉石壺の御所〉。鎌倉幕府の創始者,源頼朝の急死にまつわる巷説に取材したもの。肉親の情から秘密に閉ざされた父の死の真相をあくまで糾明しようとして傷ついていく,若き将軍頼家の姿と,源家と幕府を守るために,真実を押しかくす政子,さらに頼朝を斬って苦悶する畠山重保。三者三様の心理の葛藤を,巧みな人物配置と優れた構成によって見事に浮彫りにしていて,後年の頼家の悲劇が暗示されている。青果一流の名ぜりふがちりばめられていて,オペラのアリアのように輝いている。父への情愛と究理の精神の葛藤に苦しむ頼家の姿は,ハムレットにも似てみずみずしく魅力的である。
執筆者:真山 美保
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