華やかな演奏効果をめざして作曲された声楽曲,またはその部分。17世紀以降,オペラ,オラトリオ,カンタータなどの劇音楽の発展に伴って,アリアはその中で重要な地位を占めるようになった。これらの劇音楽では,物語の発展は語る口調に近いレチタティーボに主としてゆだねられ,アリアはもっぱら音楽的興味を前面に押し出した〈聞かせどころ〉として機能した。アリアが歌われる間,物語の発展は原則として停止し,そのことを通じてアリアは独自の完結した音楽的形式を展開し,種々の声楽的技巧を盛りこむことができた。歴史的に見ると,初期の有節形式のアリア,固執低音にもとづくアリア,ロンド形式のアリア等をへて,18世紀には声のソナタあるいはコンチェルトになぞらえられるダ・カーポ・アリア(中間部を挟んで主部が反復される大規模で技巧的なアリア)の形式が成立する。また声の表情や用いられる技巧の種類に従って,緩やかなテンポでたっぷりと歌うアリア・カンタービレ,急速なテンポで技巧の限りを尽くすアリア・ディ・ブラブーラなど,さまざまなジャンルが併立した。19世紀に入ると,ワーグナーのように,ドラマの自然な流れを損なうとの立場からアリアを排撃する者も現れたが,イタリア風のオペラでは引き続きアリアが重要な役割を占め,アリアなしの名場面は考えることができない。ベルディの作品では,1曲のアリアは,カバティーナと呼ばれる抒情的な部分と,カバレッタと呼ばれる劇的に高潮した部分とから成ることが多い。20世紀の作品では,一般に音楽とドラマが密着し,音楽的表現が多元的となったのに伴って,アリアは以前ほど顕著な役割を占めていない。
語る口調に近いレチタティーボともっぱら歌唱的なアリアの中間的性格をおびるものにアリオーソがあり,しばしばレチタティーボからアリアへ推移する際に効果的に用いられる。また小規模なアリアをアリエッタと呼ぶことがある。
アリアは,本来声楽曲の形式であるが,抒情的歌唱的な性格をもつ器楽の主題や楽章も時にアリアと呼ばれる。有名な例として,バッハの《管弦楽組曲第3番》のアリア(いわゆる《G線上のアリア》)や,同じバッハの《ゴルトベルク変奏曲》(原題《アリアと30の変奏》)の主題などがあげられる。
執筆者:服部 幸三
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オペラ、オラトリオ、カンタータなど、大規模で劇的な作品中の独唱歌曲。詠唱と訳される。音楽用語として現れるのは16世紀からで、本来、有節的な形式をもつ曲に対して用いられた。オペラの独唱曲を示す最初期の例はモンテベルディの『オルフェオ』(1607)第2幕冒頭にみられるが、17~18世紀には変奏曲の主題や組曲の緩徐楽章などをさすこともあった(バッハの『ゴールドベルク変奏曲』の主題や、管弦楽組曲第3番の俗称『G(ゲー)線上のアリア』はこれらの例である)。アリアは一般にレチタティーボと対をなし、歌手は後者で物語の状況を説明したあと、前者で自身の心情を吐露する。アリアの形式は17世紀中葉に定型化し、ABAの構造をもった。これをダ・カーポ・アリアda capo ariaとよぶ。18世紀にオペラが栄えたナポリでは、ベルカント唱法の発達と並行して、歌手が自身の技巧を誇示するために即興的に装飾音を加えたり、音を自由に変えて歌うようになった。ダ・カーポ形式は18世紀中葉から崩れ始め、アリアの形式は多様化する。19世紀イタリアでは、18世紀以来のコロラトゥーラを中心としたアリアが全盛期を迎えたが、やがてドイツでワーグナーの楽劇が生まれるに及んで、アリアとレチタティーボは解け合い、段落感のない無限旋律に姿を変えた。ムソルグスキー、ドビュッシー以後アリアはほとんど姿を消すことになる。
[石多正男]
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