内科学 第10版 「食事性低血圧」の解説
食事性低血圧(低血圧)
病態生理・病因
食事により内臓血流が増加し,血管抵抗は低下するが,健常者では神経性,液性などの調節機序により血管抵抗は維持され,心拍出量も増加する.このような生理的代償機序が欠如または低下した場合,食事性低血圧が起こりやすくなる.食時性低血圧を促進する因子として①食事栄養成分(特に炭水化物とグルコース),②高温食,③体位(起立),④高血圧,⑤自律神経障害,⑥薬剤(特に降圧薬,抗精神病薬)が指摘されており,胃の伸展状態や消化管ホルモンも病態に関与すると報告されているが,機序についてはいまだ不明の部分も多い.
臨床症状
食後にめまい,失神,転倒,脱力,視力障害などの症状を呈する.特に高齢者で食後の失神や転倒骨折,降圧剤服用時の過度の降圧などがみられた場合,本病態を考慮する必要がある.
治療
1)非薬物療法:
過剰な内臓血管の拡張を回避し,食事性低血圧を予防するには,炭水化物の多い食事を避け1回の食事量を減らし回数を多くする.また,高温食を控え水分摂取を多くすることが推奨されている.
2)薬物療法:
カフェインはアデノシン受容体拮抗作用を有し,またソマトスタチン類似物質であるオクトレオチドは内臓血管を収縮させ,食事性低血圧予防に有用との報告がある.また糖尿病患者では,αグルコシダーゼ阻害薬が有効との報告もある.しかしながら,長期効果を含めた有用性については立証されていない.[佐藤伸之・長谷部直幸]
■文献
稲葉宗通,野口雄一,他:低血圧.日本臨牀,循環器症候群Ⅰ,pp120-123, 2007.
中村由紀夫,大倉誓一郎,他:起立性低血圧.日本臨牀,循環器症候群Ⅰ,pp124-127, 2007.
高橋 昭監修,長谷川康博,古池保雄編:食事性低血圧,南山堂,東京,2004.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報