日本大百科全書(ニッポニカ) 「グルコース」の意味・わかりやすい解説
グルコース
ぐるこーす
glucose
代表的な単糖で、D型とL型があり、天然に存在するのはD型で、ブドウ糖ともよばれる。グルコースは白色の粉末で甘味があり、水によく溶ける。水溶液にエタノール(エチルアルコール)を加えても沈殿しない。アルカリ性ではそのアルデヒド基のために還元性をもち、アンモニア性硝酸銀の銀イオンを還元して遊離の銀とする銀鏡反応を示す。また、グルコースは動物、植物いずれにおいてもエネルギー代謝の中心に位置する重要な物質である。
なお、高等植物の細胞壁の主成分はセルロースであるが、これはグルコースからなる多糖の一種であり、地球上でもっとも多量に存在する生体高分子とされている。
グルコースの関与する代謝経路は複雑であるが、高等動物では次のような経路がとくに重要である。まず、グルコースがリン酸化されたのちに各種の中間体を経て2分子のピルビン酸にまで分解される過程があり、これを解糖系とよぶ。酸素が十分にあればピルビン酸はさらにクエン酸回路を経て完全に酸化され、二酸化炭素と水になる。この全過程を通して放出されるエネルギーのうち、グルコース1モル当り約270キロカロリーがATPのエネルギーとしてとらえられ、他の生体反応のために利用される。これはグルコースが完全燃焼するときに放出するエネルギーの約40%に達する高い効率である。グルコースはまたペントースリン酸回路によって分解され、核酸合成の原料となるリボースや脂質代謝などに必要なNADPH(還元型ニコチン酸アミドアデニンジヌクレオチドリン酸)を生産する。オキザロ酢酸を経てグルコースをつくりだす反応もあり、糖新生とよばれる。グルコースはその重合体であるグリコーゲンの形で肝臓や筋肉などに貯蔵される。グリコーゲンの生合成と分解の系は、これまた重要な代謝系である。このようなグルコースが関与する代謝系は、その反応速度がホルモンなどにより厳しく統制されていて、生体の置かれた環境にもっとも適したエネルギー代謝が行われる仕組みとなっている。ヒトの血液は約0.1%のグルコースを含む。このグルコースは血糖ともよばれるが、その由来は、小腸から消化吸収されたものと、肝臓のグリコーゲンが分解されて動員されたものである。また、その運命は、おもに肝細胞に回収されてグリコーゲンとして蓄えられるか、他の組織の細胞に吸収されて利用されるかのいずれかである。肝臓は血糖の量を調節するダムの役目をするわけであるが、このために肝細胞の膜はグルコースを自由に出入りさせられるようになっている。他の組織の細胞がグルコースを取り込むためには、インスリンの存在が必要である。糖尿病でインスリンが欠乏すれば、グルコースの利用が抑制されて血糖値が高くなる。
高等植物の光合成において最終生産物はグルコースであるが、これはただちにデンプンに合成されて蓄えられる。なお、果実などには遊離のグルコースも含まれる。
[村松 喬]