改訂新版 世界大百科事典 「香薬」の意味・わかりやすい解説
香薬 (こうやく)
中国や明治前の日本などで,焚香(ふんこう)料,香辛料,薬物の総称。植物の樹脂からとれる沈香(じんこう),安息香,没薬(もつやく),乳香,材からとれる白檀(びやくだん),竜脳,皮や根からとれる肉桂,花からとれる丁香(クローブ),果実からとれる胡椒,肉荳蔲(にくずく)は,東南アジア,西南中国,インドや東アフリカ,西南アジアに産し,ほかにマッコウクジラの分泌物(竜涎(りゆうぜん)香),ジャコウジカ,ジャコウネコの生殖腺分泌物もあった。唐末,宋・元時代に海陸貿易がおこり,都市文化が繁栄すると,軽量で高価な香薬は重要貿易品となって,中国や周辺諸国で求められ,広東,杭州,紹興,衡州,成都,開封や互市場,市舶港で取引された。宋朝はこれを専売品とし,手形を発行して軍需や貿易に利用したが,民間では薬種業者,道教僧侶が流通を担った。とくに沈香が尊重され,諸香と混ぜて焚(た)く焚香は日本に伝わり,香道がおこった。香薬はこうして宮廷貴族から官僚,僧侶,道士,都市民に広く日常的に愛好され,洗練された都市文化を象徴する存在となった。
→香料
執筆者:斯波 義信
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