手形(読み)テガタ

デジタル大辞泉 「手形」の意味・読み・例文・類語

て‐がた【手形】

手の形。物についた、手の形の跡。「たたかれた背中に手形が残る」
てのひらに墨などを塗って、紙などに押した手の形。昔は、文書に押して後日の証拠とした。「力士の手形の色紙」
一定の金額の支払いを目的とする有価証券為替手形約束手形の総称。広義には、小切手を含む場合もある。「手形を割り引く」
関所手形のこと。
印形を押した証文・証明書など。
「当座借りの金銀、―なしの事なれば」〈浮・織留・一〉
牛車ぎっしゃ方立ほうだてや、馬のくら前輪まえわの左右につけてあるくぼみ。手をかけるためのもの。

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精選版 日本国語大辞典 「手形」の意味・読み・例文・類語

て‐がた【手形】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 手の形。てのひらに墨などを塗って押しつけた形。手を押しつけてついた形。
    1. [初出の実例]「背中に鍋炭(なべすみ)の手形(テガタ)あるべしと、かたをぬがして、せんさくするにあらはれて」(出典:浮世草子・西鶴諸国はなし(1685)五)
  3. 手で書いたもの。手跡。筆跡。書。
    1. [初出の実例]「手形(テガタ)は残れど足形は不(のこらず)」(出典:譬喩尽(1786)五)
  4. 昔、文書に押して、後日の証とした手の形。
    1. [初出の実例]「繙(ひぼとく)印の一巻〈略〉くりひろげてぞ叡覧有、異類異形の鬼神の手形、鳥の足、蛇の爪」(出典:浄瑠璃・日本振袖始(1718)一)
  5. 印判を押した証書や契約書などの類。金銭の借用・受取などの証文や身請・年季などの契約書。切符。手形証文。また、それらに押す印判。
    1. [初出の実例]「手形をたもるのみならず、酒までのませ給ひけり」(出典:虎明本狂言・盗人蜘蛛(室町末‐近世初))
    2. 「母さまの手形(テガタ)をすゑて証書を渡し、百両の金をうけとり」(出典:読本・昔話稲妻表紙(1806)三)
  6. 一定の金額を一定の時期に一定の場所で支払うことを記載した有価証券。支払いを第三者に委託する為替手形と、振出人みずからが支払いを約束する約束手形とがある。もとは小切手をも含めていった。
    1. [初出の実例]「悉尼(シドニー)より来れる千金の手形倫敦にて千金に通用し」(出典:経済小学(1867)上)
  7. 江戸時代、庶民の他国往来に際して、支配役人が旅行目的や姓名、住所、宗門などを記して交付した旅行許可証と身分証明書を兼ねたもの。往来手形。関所札。
    1. [初出の実例]「一、女人手負其外不審成もの、いつれの舟場にても留置、〈略〉但酒井備後守手形於在之は、無異儀可通事」(出典:御触書寛保集成‐二・元和二年(1616)八月)
  8. 信用の根拠となるもの。身の保証となるもの。また、信用、保証。
    1. [初出の実例]「あの東林めが、お娘を殺さぬ受合ひの手形」(出典:歌舞伎・心謎解色糸(1810)三幕)
  9. 首尾。都合。具合。また、人と会う機会。
    1. [初出の実例]「源氏がなさけは深しといふ人もあれども、しれにくき事の手がたあらんもの也」(出典:随筆・独寝(1724頃)下)
  10. 表向きの理由。口実。だし。
    1. [初出の実例]「おおくは忍びて青楼(ちゃや)へゆく。名代(テガタ)は講参会の外、おもてむきでゆく事かなわず」(出典:洒落本・睟のすじ書(1794)壱貫目つかひ)
  11. 牛車の箱の前方の榜立(ほうだて)中央にある山形の刳(えぐ)り目。つかまるときの手がかりとするためという。
    1. [初出の実例]「木曾手がたにむずととりつゐて」(出典:平家物語(13C前)八)
  12. 武家の鞍の前輪の左右に入れた刳(く)りこみのところ。馬に乗るときの手がかりとするもの。
    1. [初出の実例]「悪源太〈略〉手がたを付けてのれやとの給ひければ、打ち物ぬいてつぶつぶと手形を切りてぞ乗ったりける。鞍に手がたをつくる事、此の時よりぞはじまれる」(出典:平治物語(1220頃か)中)
  13. 釜などに付いている取っ手。〔日葡辞書(1603‐04)〕

手形の補助注記

は「随・貞丈雑記‐九」に「証文の事を手形とも云事、証文は必印をおす物也。上古印といふ物なかりし時は、手に墨を付ておしてしるしとしたると也」と見え、手印を押したところから「手形」といわれるようになったという。


て‐なり【手形】

  1. 〘 名詞 〙 ( 手の動くままにという意 ) 茶道で手前にあたり、器物の扱い方、置き合わせなどを自然のままに、無理のないように行なうこと。

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改訂新版 世界大百科事典 「手形」の意味・わかりやすい解説

手形 (てがた)

手形は一定の金額の支払を目的として発行される有価証券である。手形という語は古くは一般に証書・証文をさしていたが,これは証書類に署名に代えて手指を押捺(おうなつ)する風習に由来するといわれる。現在の手形制度は,後述にあるように中世におけるイタリアおよびその他の地中海沿岸地方の諸都市の両替商が発行した手形にその起源があるとされているが,日本でもすでに鎌倉時代には一種の証書が存在し,送金の用に供されていた。現在の手形には,振出人がみずから自己の債務支払を約束する約束手形と,振出人が支払人にあてて支払を委託する為替手形の2種類がある。小切手が金銭の代りをなすものとしてもっぱら支払手段としての機能のみを有するのに対して,手形は信用取引の円滑化という,より広範な経済的機能を果たしている。金銭の支払に伴う不便や危険を回避するため送金,支払,債権取立手段として用いられるとともに,金融機関の貸出取引における手形割引手形貸付けにみられるように,その信用機能により金融の手段として用いられている。

 このように,手形が信用証券として経済上の機能を果たすためには,その流通の円滑性,取引の安全性を確保することが必要であり,法律上も手形には次のような特性が認められる。すなわち,手形の要式は法定されており,その要件を欠く手形は無効であるが,要式を具備していればそれをなすに至った原因関係のいかんにかかわらず,振出し,裏書などの行為自体によって手形上の権利は成立する。その権利内容は手形記載の文言によって決定され,記載文言以外の原因関係や効力からの影響を受けることはない。また,手形は裏書によって譲渡することができ,転々流通する。手形の所持人は手形金額の支払がないときには,その前者である裏書人すべておよび振出人に対して債務の履行を請求することができる。手形上の権利の行使には手形の呈示を必要とし,支払者も手形と引換えでなければ手形金額の支払を要しない。
執筆者:

約束手形は,振出人が受取人その他,手形の正当な所持人に対して,みずから一定の金額(手形金額)を支払う旨を約束した証券であり,為替手形は,振出人が第三者(支払人)にあてて,手形金額を受取人その他,手形の正当な所持人に対して支払うよう委託した証券である。経済的には,その機能から商業手形融通手形,担保手形などさまざまに分類されているが,法律上は約束手形または為替手形のいずれかに属し,その法的性質に違いはない。

 なお小切手は,振出人が支払人にあてて,小切手金額を受取人その他,小切手の正当な所持人に対して支払うよう委託した証券であり,為替手形にきわめて類似した法的構造をもっている。

 手形は有価証券の中で証券(書面)と権利との結合度が最も強いもので,完全な有価証券と呼ばれている。すなわち,手形上の権利(振出人などに対する一定金額の支払請求権)は,手形という証券の作成によってはじめて発生し,手形上の権利を譲渡するには相手方への手形証券の交付が必要であり,権利行使には手形証券の呈示をしなければならない。ただし,証券の物理的滅失によって権利自体が消滅するわけではない。除権判決(〈公示催告〉の項参照)を得ることによって,権利行使が可能となる。

手形の流通には多数人が関与するため,その権利・義務の内容の明確さがとくに強く求められる。したがって手形に関する法制度は,他の私法領域に比べ早くから成文法化されてきた。日本では江戸時代以前には慣習法として存在していたが,1882年にはヨーロッパの法制度を採り入れた太政官布告為替手形約束手形条例〉が制定され,その後90年の〈商法〉(いわゆる旧商法)第1編第12章〈手形及ヒ小切手〉,99年の〈商法〉第4編〈手形〉,さらに現行法である1932年の〈手形法〉と変遷している。

 また,手形は国際取引で多く利用されているため,各国の手形に関する法制度が異なっていることは手形取引の大きな障害となる。そこで,手形法の国際的統一化が多くの機関によって図られてきた。まず国際連盟経済委員会の主催により,1930年にジュネーブにおいて〈為替手形・約束手形および小切手に関する法律統一のための国際会議〉が開かれ,〈為替手形及約束手形ニ関シ統一法ヲ制定スル条約〉(いわゆるジュネーブ手形法統一条約統一手形法条約)が成立した。これは各締約国が,条約の第1付属書の定める〈統一規則〉(78ヵ条)をそれぞれ各自の領域で施行することを約したものである。日本はこれに加盟し,現行〈手形法〉はこの統一条約に基づいて制定されたものである。97年現在,この統一条約に加盟しているのはドイツ,フランス,イタリア,スウェーデンベルギーなどヨーロッパ大陸諸国である。しかし,イギリス,アメリカなどのイギリス法系に属する諸国および第2次世界大戦後独立した諸国は1ヵ国も加盟しておらず,統一法としては決して十分な効果をあげていない。そこで,国際連合国際商取引法委員会は,とりあえず国際取引においてのみ用いられる手形(国際手形)について統一制度を実現するための作業を行い,〈国際為替手形及び国際約束手形に関する条約〉として採択された。

 手形制度は多くの法律によって規律され,支えられている。最も重要なものは〈手形法〉である。第1編為替手形,第2編約束手形,付則から成っている(94ヵ条)。手形法の規定は,手形上の権利義務の明確化・画一化のため,ほとんど強行規定である。手形法の付属法令として,〈拒絶証書令〉(1933年公布の勅令),〈手形法第83条及小切手法第69条ノ規定ニ依ル手形交換所指定ノ件〉(1933年の司法省令)および〈手形法87条及び小切手法75条の規定による休日を定める政令〉(1983年の政令)がある。このほか,手形小切手訴訟制度を定める民事訴訟法第5編〈手形訴訟及び小切手訴訟に関する特則〉(350~367条),除権判決制度を定める〈公示催告手続及ビ仲裁手続ニ関スル法律〉(777~785条),印紙税法(2条,4条1項,別表1-3号),破産法(57,73条)などの諸法が,手形に適用される。

 ところで近年,各国で消費者信用の発展とともに消費者が手形の振出を求められ,その手形が金融業者に譲渡されて予期しない不利益を受ける事件が多発するようになった。消費者にとっては,欠陥商品の引渡しや商品の引渡しがないなどの場合に,販売業者に対する抗弁をもって手形所持人に対抗することが困難となる(手形抗弁の切断)。そこで世界各国では消費者手形について特別な法的取扱いをする法を制定する国が増加してきた。たとえば,消費者手形の利用を禁止する(アメリカ統一消費者信用法典),手形面に〈消費者手形〉などの表示を義務づけ,その手形の抗弁切断機能を否定する(カナダ手形法),割賦販売では指図禁止手形のみ利用を認める(オーストリア割賦販売法)などである。日本には,消費者手形に関する特別な法制度は現在ない。

手形の基本的な法律関係を,約束手形を中心に述べよう。約束手形の振出しにおいては,振出人は手形証券に手形要件(必ず記載されていなければならない事項)を記載し,署名(記名,捺印を含む)して,これを受取人に交付しなければならない。手形要件の記載が一つでも欠けていれば,原則として約束手形としての効力を認められない(手形法1条,2条1項)。なお,受取人その他によって後に補充されることを予定して,手形要件のいくつかをあえて記載せずに振り出すことも多い。これを白地(しらじ)手形といい,商慣習法によって完成手形と同じように流通している。しかし権利行使のときまでに白地の要件が補充されていなければ,手形要件を欠く無効な手形として扱われる。

 受取人は,手形を満期まで所持してみずから権利行使してもよい。しかし,手形はほかに譲渡されることによって,はじめてそのおもな機能を発揮するため,裏書という簡易な譲渡方法が認められている。また手形が裏書の方法で譲渡された場合には,善意の譲受人は強く保護される。たとえば無権利者から手形を譲り受けた場合も,権利を取得することができる(善意取得。77条1項1号,16条2項)。また,振出人が譲渡人に対して手形振出しの原因関係(売買契約など)に基づく抗弁をもっている場合にも,善意の手形所持人はその抗弁をもって対抗されない(人的抗弁の切断。77条1項1号,17条)。

 手形金の支払期日(満期)として,手形法上4種類の記載が認められている。確定日払,日付後定期払,一覧払,一覧後定期払である。実際には確定日払手形が最も多い。なお分割払手形は無効である(77条1項2号,33条)。

 手形金の支払を受ける場合,手形所持人は,手形を振出人(または支払担当者)に呈示しなければならない(支払呈示。77条1項3号,38条)。通常は手形交換によって支払われるため,手形交換所での支払呈示が多い(77条1項3号,38条2項)。手形金請求権は消滅時効(77条1項8号,70条1項)にかかるまで存在するが,遡求権を保全するためには,支払を受けるべき日(満期日およびその後の2取引日内,一覧払のときは,振出日付から1年内)に呈示しなければならない(77条1項3号,38条)。振出人が支払資金がないなどの理由で支払を拒絶した場合には,手形所持人は自己の前者である裏書人全員およびその保証人に対して,代わって手形金を支払うよう請求することができる(遡求(そきゆう)権。77条1項4号,43条)。約束手形上の権利が,消滅時効または遡求権保全手続を怠ったことによって消滅したときは,手形所持人は振出人または裏書人に対して,その受けた利得の償還を請求することができる(利得償還請求権。85条)。
執筆者:

中世のヨーロッパではイタリア-シャンパーニュ-フランドルを結ぶ交易が重要な意義をもっていた。とくに12,13世紀においては,シャンパーニュの市で香料,皮革,毛織物がさかんに取引され,ヨーロッパ中から商人が集まった。やがてこの市でさまざまな貸借関係を決済する習慣ができ,為替が発展した。すなわち商人たちは債務を遠隔地の市において外国通貨で返済したのである。教会は利子付貸付けを禁止していたが,為替取引は容認したので,商人は為替相場の中に事実上利子分を含めることによって,合法的に利子を取得することができた。一度外地へ送金し,さらにそれを送り返してもらうという形で,高利貸付けを偽装することもできた。為替契約ははじめ公証人によって公正証書として作成されたが,13世紀末になると商人が私的な証書を作成するようになって為替手形が成立した。イタリアの中でもフィレンツェ,シエナ,ルッカなどの有力商人はロンドン,パリ,ブリュージュなどヨーロッパの主要な市場を結ぶために支店網を築き,有利な為替取引を行った。彼らの署名は公証人の署名と同様の信用性を得るにいたった。手形の裏書は16世紀のイタリアで発生したとされているが,実際には普及しなかった。一般に中世では債権を第三者に譲渡することには強い抵抗があった。16世紀のオランダにおいて,債務証書の持参人が債権を行使できるという習慣が成立し,やがて17世紀には為替手形にもこの習慣が拡大して裏書が発生し,手形が流通することになった。為替手形の割引は,教会の利子付貸付けの禁止のために成立が遅れたが,イギリスにおいて17世紀末に始まり,発券とともにイングランド銀行の主要業務の一つとなった。18世紀末以降,他のヨーロッパ諸国でも同様な国立銀行が生まれた。このように為替手形が割引可能な証券となったことによって,近代的な手形が成立したことになる。
執筆者:

イスラム世界はウマイヤ朝時代に,西はイベリア半島から東は中央アジア,イランまで広大な領域に拡大し,アッバース朝時代には行政上,商業上の必要からスフタジャsuftaja(為替手形),ルクアruq`a(約束手形),チェックcekkまたはサックṣakk(小切手)など各種信用証券が発達した。貨幣と貨幣とを交換する単純な両替と異なり,現実に受け取った貨幣またはその対価物と交換に証券を与え,これを媒介として支払をするのが手形決済である。ルクアは証券の振出人がみずから証券記載の金額を支払うことを約束した信用に基づく借金証書である。バラートbarātは指定地域の税金を担保とし,徴税官を支払責任者に指名した〈持参人払いの指図式約束手形〉で,政府振出しの借用証書(公債)である。スフタジャは振出人が第三者を支払人に指定し,他地にある受取人あてに送る送金手形である。ペルシア語のチェック,アラビア語のサックは,金融業者(ジャフバズjahbadh)に財物を寄託した預金者が振り出して預託金を引き出す〈支払指図書〉のことで,現今ヨーロッパ諸語で小切手を表す語は,イスラム商業用語チェックにさかのぼることができる。
執筆者:

日本の商業史上で,信用取引が発生するようになったのは鎌倉時代中期ないし後期(13世紀後半)からであるが,そこで作成された文書は割符(さいふ),為替(かわせ)などとよばれた。こうした契約証書類が手形とよばれるようになったのは戦国時代以降であろう。元来〈手〉は人間の契約,誓約行為と重要な関係にあり(中田薫《法制史に於ける手の働き》),掌に朱や墨を塗り,文書などに手の形を押捺する手印(ていん)はもっぱら起請(きしよう)とよばれる文書形式にみられた。この手印は押捺者の文書内容に対する強い意志,信念,願望を表現したものといわれる。おそらくこうした手そのものについての特殊な観念が,契約証書をして手形とよばせたのであろう。
執筆者: 江戸時代,手形は都市内あるいは隔地間の貨幣取引,商品の延売買(のべばいばい)における送金や商品代金の支払に用いられるようになった。それは手形発行の担い手である両替屋を中心とした商業信用が,大坂,江戸,京都の3都と城下町を結ぶ隔地間商業を中心とする幕藩制的商品流通の発展とともに進展したからで,手形を使った取引決済は商業技術として一般化した。この時代,手形は両替屋を中心とした信用機構の中で,貨幣を節約する代替物として機能し,商人相互の貸借関係を相殺する絶対的貨幣としての役割を果たすに至ったのである。

 こうした手形も最初は,大坂両替屋天王寺屋五兵衛が鎌倉の奉行青砥左衛門尉(あおとさえもんのじよう)(藤綱)の手形使用の故事を伝聞し,採用したのに始まるといわれる。本格的な手形の流通は大坂の両替屋小橋屋浄徳,鍵屋六兵衛の両名が参加した後に発展していく。それは大坂で流通した手形が両替屋を軸に振り出された銀手形であったからである。銀手形は近世の大坂が江戸の金遣い(きんつかい)経済に対し銀遣い経済であり,そこでの大量の商取引には丁銀(ちようぎん),豆板銀(まめいたぎん)などの秤量(ひようりよう)銀貨が使われたが,その銀貨は秤量の煩雑,携帯・運送の不便,真贋鑑定の困難を伴い,かつ正貨決済にも不便なことから使われたのである。寛文期(1661-73)に,大坂諸商業に対する正規の作成,問屋・十人両替の組織化が東町奉行石丸定次によって計られ,この十人両替にその後中小の両替屋が結び,近世の信用機構,信用制度が拡充されると,銀手形はよりいっそう流布した。江戸中期ころから,計量貨幣の金銀貨が通用したが,大坂では手形の使用が盛んで,大坂近在や隔地間の取引をはじめ,都市内の薪炭から米魚に至る節季の支払にまで用いられた。

 手形の中には一局地内に流通した藩や豪農発行の私的手形もあるが,江戸時代両替屋を通じて流通したおもな手形には,為替手形,振出手形,振差紙(ふりさしがみ),預り手形の四つがあった。そのほかに大手形,素人手形などあるが,為替手形は大坂-江戸間の為替取引に用いられた。当時の大坂は消費市場江戸への物資移送により,つねに江戸に対し貸勘定になっており,諸藩の大坂廻米による払米(はらいまい)代金の江戸藩邸への送金はその貸勘定をもって決済された。こうした大坂,江戸との関係から取り組まれた為替には,送金為替(上方為替,為登(のぼせ)手形)と逆為替がある。前者は武家,商人を問わず,両替屋が平素懇意にしている者から上方(京都,大坂)へ送金を依頼されたとき,両替屋が上方から江戸へ下す為替(江戸為替)の心当りがあればそれに応ずる為替である。後者は債権者が債務者から代金を取り立てるもので,商人が直接手形を振り出し(直振り手形),両替屋に依頼する場合もある。為替手形取組の前提は取引者間の貨幣を相殺することにあったのである。振出手形は預金者あるいは両替屋から他の両替屋に振り出された,今日の小切手に相当するもので,為替手形同様送金にも利用された。この手形は手形の受取人が振りあて先の両替屋に手形を持参すると,振出人の預金額(両替屋との間に当座貸越契約があれば,その額)を限度に支払われ,限度をこえると不渡りとなるものである。振差紙は両替屋相互間だけに通用した手形であり,また預り手形は両替屋が預金者に交付した預金証書である。両替屋はこうした手形,とくに振出手形,振差紙の利用をもとに信用創造を盛んに行っていた。その活動は1868年(明治1)5月の銀目廃止まで続けられ,以後は新しい信用制度のもとに改編されていく。
執筆者:

中国で流通界に手形が明確に登場してくるのは唐代であり,西欧に数世紀先んじている。唐宋変革期(9~13世紀)の商業革命において貨幣経済が急激に広がり,鋳造貨幣の銅銭が唐の20余万貫から宋の500万貫へと増鋳されたものの供給が不足し,また重くて大口,遠距離の取引に不便であるため,手形の盛行をみたのである。まず為替手形が先行し唐では飛銭(ひせん)とよんだ。振出人は振出しと同時に支払人にも一通の文書を送り,支払人は受取人の持参する飛銭と照合したうえで手形金額を支払った。後世の三聯単(れんたん)つまり文書の右片を自家にとどめ,中片を受取人に渡し,左片を支払人に送る為替手形の原型である。宋代では便銭といって官私で盛用した。清代では会票,のち匯票(わいひよう)といい,業者を票号,票荘,匯兌荘(わいだそう)と称し,山西商人の山西票号は金融界を制し,手形,預金,貸出しで巨富をなした(匯は水の回流を指す)。匯票は記名,無記名,一覧払,期日払,一覧後期日払の別があり,裏書制度も生じ,支払拒絶のとき手形所持人は直接の交付者か振出人に請求した。約束手形は宋代,四川の交子(こうし)に始まる。交子鋪が振り出した手形(印刷)には家屋・人物の模様とともに振出人の暗号が記され,サイン押印し金額を記入した。交子鋪は組合をつくり連帯責任を負った。ほかに会子(かいし),関子(かんし)などの兌換(だかん)券があり,無記名一覧払約束手形として機能した。会,関,交は照合に由来する。明,清の銭鋪(せんぽ),銭荘,銀号などの両替業は,預金貸出しや銭票,銀票を発行する銀行業務を行ったが,こうした銭票,銀票も約束手形に含めることができる。このほか,唐代には帖とよぶ小切手が流通し,振出人,受取人,支払人,金額,年月が紙面に記入され,サインを備えていた。こうした支払証券は宋以後各種商店でよく用いられた。このように早熟的に手形が発達しながら,前近代交通の妨げなどで経済の全国統合が成らず,地方色をとどめて名称形式の統一が遅れ,1929年の手形法で統一に向かった。
為替 →両替
執筆者:

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日本歴史地名大系 「手形」の解説

手形
てがた

[現在地名]秋田市千秋城下せんしゆうじようか町・千秋公園せんしゆうこうえん千秋中島せんしゆうなかじま町・千秋北の丸せんしゆうきたのまる手形休下てがたきゆうか町・手形てがたからみでん・手形田中てがたたなかの各一部と手形新栄てがたしんさかえ町・手形住吉てがたすみよし

本丸と北の丸の北東部、手形村に続く地域で、手形の名を冠する町は、現千秋城下町には、手形新てがたしんしも丁・同谷地やち町上丁・同谷地町下丁があり、現千秋公園には手形上町、現千秋中島町には手形休下町、現千秋北の丸には手形上町・手形休下町があった。また現手形新栄町には手形新町上丁・同下丁・手形谷地町上丁・同堀反ほりばた町があり、現手形住吉町には手形東新てがたひがししん町・同西新町があった。現手形休下町には手形休下町・同本新もとしん町があり、現手形からみでんには手形休下町が、現手形田中には手形休下町・同本新町があった。手形の形は潟で、正保年間(一六四四―四八)の出羽国秋田郡久保田城画図(内閣文庫蔵)に、手形町の東は深田とあり、現在も手形深田てがたふかだの名を残している。南は長野ながの沼に続き、東にあか沼があるなど一帯の沼沢地であった。

給人町の町割は、手形村の西部を占め、久保田城を北東から東部にかけ包囲する体勢にある。正保の画図には、三の丸の一部をなす山の手の手形上町、それより北の手形虎の口てがたとらのくちを出て六供ろつく町、すなわち手形休下町とその東、手形本新町、南下して外堀に沿った手形谷地町、手形堀反町が町割されている。

出典 平凡社「日本歴史地名大系」日本歴史地名大系について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「手形」の意味・わかりやすい解説

手形(有価証券)
てがた
bill 英語
billet フランス語
Wechsel ドイツ語

一定金額の支払いを約束または委託する有価証券。手形という語は古くは証書・証文をさしていたが、これは、証文などに固い約束を示すために手に墨をつけて手の形を押して相手に渡したことに由来するといわれる。現行のような手形制度は、中世にイタリアおよび地中海沿岸の諸都市で発達した両替商が発行した手形に始まるとされるが、日本でも鎌倉時代にはすでに、割符(さいふ)とよばれる為替(かわせ)手形の一種が使用されていた。

 現在の手形には、手形法上、約束手形と為替手形とがある。約束手形は、振出人が自ら支払人として、名宛(なあて)人である受取人に対して、一定金額を支払う約束をした手形である。当初の手形当事者は振出人と受取人である。この約束手形は、支払いの繰り延べ機能を有するため、金銭の支払いや貸借などに利用されている。一方、為替手形は、振出人が、名宛人である第三者に対して、一定金額を支払うよう委託した手形であり、名宛人(支払人)は引受けの署名をすることにより支払義務を負い、手形上の主たる義務者となる。為替手形における手形当事者は、振出人、受取人、名宛人(支払人)の三者である。現在では、為替手形は、国内取引上はほとんど使用されておらず、主として貿易代金の決済に使われているが、これはその代金取り立て機能を活用しているものである。為替手形の機能としては、このほか送金機能がある。

[太田和男]

法的特質

手形は、小切手とともに財産的権利を化体する証券であって、その権利の行使または移転がその証券によってなされることを要するから有価証券である。その手形上の記載文言は、金銭の支払いを目的とする債権に限られるので貨幣証券ともいわれる。このように手形は、信用証券としての機能を発揮して、円滑に流通することを要請されているため、手形がそうした効力を発揮するように、一定の手形要件の記載を厳しく要請されているので要式証券でもある。もし、この形式を欠くと手形は効力を生じない。手形上の権利・義務は、その原因である売買代金決済関係などとは別個に、手形が作成されて初めて発生するので、手形は設権証券であり、手形に署名した者の手形上の法律関係、責任は手形上の記載文言に従って判断、決定されることとなるので文言証券でもある。また、手形には、手形振出しの原因となった売買のための代金支払いとか借入れとか手形の原因関係については記載が許されず、一定の金額を支払うことについての単純な約束または委託だけを記載することになっており、法律上、いったん手形が流通した場合には、原因関係の有効、無効によって手形上の権利に影響がないので無因証券、抽象証券、不要因証券といわれる。手形はまた、指図式であればもちろんのこと、指図文句を記載しない場合でも、振出人が指図禁止の文字、または、これと同一の意義を有する文言を記載しない限りは、裏書によって譲渡できる指図証券である。しかも、手形は転々流通し、何人(なんぴと)が債権者であるか不明なので、手形の所持人が手形を呈示して履行の請求をすることにより、初めて手形上の権利を行使できることから呈示証券であるといわれる。手形の支払人は、手形と引き換えでなければ支払いを行う必要はないので、手形は受戻証券ともいわれる。

[太田和男]

手形の種類

手形は、法律上の性質はすべて同一であるが、その用途や機能面から種々名称が付されている。商業手形というのは、振出人と受取人との間に商行為があり、その商取引に基づいて振り出された手形のことであり、融通手形は、振出人の信用を単に受取人に利用させて、融資を受けさせることを目的に振り出される手形である。割引手形は、商取引に基づいて買取人が振り出した金額や支払時期が明確な複名手形を、銀行が手形金額から満期までの利息その他の費用すなわち割引料を差し引いて、販売業者つまり手形の受取人から買い取った手形である。貸付手形は、銀行が手形貸付に用いる手形であり、手形上の債務者が振出人だけなので通常、単名手形と称され、信用度は商業手形より低い。また、手形が貿易上使用される場合には、貿易手形といわれる。

 手形はまた、その期限により、一覧払手形、一覧後定期払手形、日付後定期払手形、確定日払手形に分類される。このうち一覧払手形においては、所持人は振出日付より1年以内に呈示しなければならず、手形債務者は、呈示がありしだいただちに支払いを行わなければならない。一覧後定期払手形、日付後定期払手形、確定日払手形においては、支払いをなすべき日およびこれに次ぐ二取引日以内に呈示しなければならない。支払いをなすべき日は満期日であるが、満期日が休日のときは、これに次ぐ取引日となる。

[太田和男]

手形の時効

手形上の権利の消滅時効については、手形上の債務者は相対的に重い責任を強いられるため、短期時効となっている。すなわち主たる債務者、つまり約束手形の振出人および為替手形の引受人に対する手形上の請求権は満期の日から3年、手形所持人の前者、つまり裏書人および為替手形の振出人に対する遡及(そきゅう)権は、拒絶証書の作成日または拒絶証書の作成免除のときは満期の日から1年、裏書人の他の裏書人および振出人に対する再遡及権は、手形の受け戻しをなした日または償還の訴えを受けた日から6か月である。

[太田和男]

『前田庸著『手形法・小切手法』(1999・有斐閣)』『井上俊雄著『手形・小切手の常識』(1997・日本経済新聞社)』『末永敏和著『手形法・小切手法――基礎と展開』第2版(2007・中央経済社)』『福瀧博之著『手形法概要』第2版(2007・法律文化社)』


手形(手のひらの形)
てがた

手のひらの形を朱や墨で紙に押し写したもの。「押手(おして)」ともいう。手形の紙を魔除(よ)け、疫神除けに門口に貼(は)る風習はかなり広くみられ、また小(こ)正月や2月8日に粥(かゆ)や団子の茹(ゆ)で汁で戸口に手形をいくつも押して「まじない」とする所もある。力士などの手形を珍重して室内に掲げたりするのも同趣で、剛力のしるしで魔障を除こうというのであろう。鬼神や英雄の手形と伝える異形の「手形石」伝説も同じ流れのもので、ときには祈願の対象にもなっていた。

 なお別に、印章のかわりに手形を押した文書を手形と通称することも古く、やがて印形を押した証券、とくに為替(かわせ)手形、約束手形の類をも広く手形と通称するに至った。

[竹内利美]

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百科事典マイペディア 「手形」の意味・わかりやすい解説

手形【てがた】

一定の金額の支払を目的とする有価証券約束手形為替手形の2形式がある。手形は金銭債権を表すもので,権利は証券と密接に結合しており,権利の発生,移転,行使のすべてが証券により行われる。金銭の支払,信用供与,送金または取立て等の機能を果たす。手形の法律的性格として,(1)有価証券,(2)要式証券(法律で定めた方式によって作成しなければならない),(3)設権証券(手形の振出しに見合う取引がなくても証券が交付されれば権利が発生する),(4)指図証券,(5)無因証券(発行の原因にかかわりなく,それ自体有効なものとされる),(6)文言証券(記載文句以外の効力はない),(7)呈示証券(権利の行使は,現物を呈示することが要件となる),(8)受戻証券(金銭を支払う際に,手形と引換えでなければ債務の弁済にはならない)が挙げられる。
→関連項目一覧払手形受取手形金銭証券小切手商業手形短期金融市場手形交換所手形法当座貸越し当座預金取立手形

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「手形」の意味・わかりやすい解説

手形
てがた
Wechsel; note

一定の金額の支払いを目的とする有価証券為替手形約束手形の2種類がある。手形は要式証券である性質を有する (→手形要件 ) ほか,設権証券,抽象または無因 (不要因) 証券,文言証券,呈示証券受戻し証券,法律上当然の指図証券などの性質を有する。手形は,売買代金の支払い,借入金の返済など金銭支払いの手段としての機能のほか,信用取引の手段としての機能を営む。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「手形」の解説

手形
てがた

江戸時代には広範な契約証書をさした。とくに貨幣制度の不備を補い,商業・金融取引の円滑な決済を行うため使用された諸手形は,大坂で創出され広く流通した。種類は預手形・振手形・振差紙・素人手形・為替手形などがある。預手形は両替商が預金者にあてて発行した預金証書で,持参者に対し支払われた。振手形は逆に預金者が両替商にあてて振り出したもので,この受取人は名あての両替商と取引のある両替商に持参すれば支払いをうけることができた。振差紙は両替商相互の,為替手形は隔地間の貸借決済のための手形である。両替商の手をへず,商人間で節季勘定の代金決済のために流通したのが素人手形で,雑喉場(ざこば)手形・唐物商手形などがある。

出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報

世界大百科事典(旧版)内の手形の言及

【関所手形】より

…古代,中世には過所(かしよ)と称するのが一般的であるが,室町時代からこの名称がみられるようになる。関所切手とか単に手形,証文ともいう。江戸時代の関所手形は大きく分類すると,鉄砲手形と女手形である。…

【会子】より

…中国,宋代に民間で用いられた手形,またこれにならって南宋政府が発行した紙幣。手形は寄付会子,便銭会子,寄付兌便銭物会子と呼ばれる。…

【交子】より

…中国,宋代に民間で用いられた手形,またこれにならって宋朝が四川の通貨として発行した紙幣。南宋時代には淮南(わいなん)路でも同名の紙幣が発行された。…

【遡求権】より

…手形・小切手になんらかの当事者として関与(署名)した者は,原則として,手形金,小切手金の支払につき責任を負わなければならない。手形・小切手の署名者の責任は2種類に分けられる。…

【両替】より

…したがって,広義には両替屋の業務内容をも含む。
【日本】
 戦国期に現れ江戸時代に隆盛した両替屋は,貨幣の交換,預金,貸出しを業とするとともに,その他諸種の手形発行も行った。中世における替銭屋(かえせんや∥かえぜにや),割符屋(さいふや)を系譜とし,それが整備・拡充されたともいわれている。…

※「手形」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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