マッコウクジラ(読み)まっこうくじら(英語表記)sperm whale

翻訳|sperm whale

日本大百科全書(ニッポニカ) 「マッコウクジラ」の意味・わかりやすい解説

マッコウクジラ
まっこうくじら / 抹香鯨
sperm whale
[学] Physeter macrocephalus

哺乳(ほにゅう)綱クジラ目マッコウクジラ科のハクジラ。ハクジラ類のなかの最大種で、雄には20メートルの体長記録がある。潜水艦のような外形で、成長すると雄の頭部は体長の3分の1に達する。下顎(かがく)は細長く、片側二十数本の犬歯状の歯が並ぶ。上顎歯は退化し、多くは歯肉に埋没している。背びれは山形をなし、その後ろに数個の隆起が連なる。全身黒色で、へその部分に白斑(はくはん)のある個体がみられる。この体色が抹香灰色に近いのが名の由来。成熟した雄の頭部から背部にかけて闘争の際に負った歯形の白条が多数みられる。全世界の海洋に広く分布するが、浅海には入らない。まれには集団で座礁することがある。成熟した雄は高緯度にまで分布するが、雌と子は暖水塊にとどまる。イカ類と底生魚類を餌料(じりょう)とする。大形の雄は3000メートルの深海に90分間も潜水することができる。一夫多妻の生殖生態を有し、性的二型が著しい。雌と子は20~30頭の群れをつくって生活し、繁殖期に闘争に勝った雄がその群れに加わり、ハレムを形成する。妊娠期間は15か月で、2年間哺乳し、その後も子は群れが育てる。アメリカ式捕鯨時代から捕鯨業の対象となったが、1986年以来、国際捕鯨委員会IWC)によって捕獲を禁止されている。資源量は現在でも豊富で、絶滅のおそれはない。なお、アンバーグリス竜涎香(りゅうぜんこう))は、本種の直腸からまれに発見される生成物である。

[大隅清治]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「マッコウクジラ」の意味・わかりやすい解説

マッコウクジラ
Physeter catodon; sperm whale

クジラ目ハクジラ亜目マッコウクジラ科マッコウクジラ属。体長は雄約 18m以上,雌約 12m以上。最大体重約 57t。出生体長は 3.5~4.5m。体色は全身茶褐色か茶色がかった灰色または青灰色で,吻部や臍 (へそ) を中心に白斑を有する。体表は年齢とともに白色化する。扁平な上顎骨の上に脳油と称する体油の貯蔵部があるため,前頭部が巨大で,ときには頭長が体長の3分の1に達する。噴気孔は1個で頭部左側の先端にあり,噴気の高さは3~4mで,水面に対して斜めに上がるため識別は容易である。下顎は上顎に比べてきわめて細長く,18~25対の円錐歯が並び,上顎にはこれらの歯が収まるくぼみがある。上顎歯は歯根内に痕跡的に残る。背鰭 (せびれ) は体の後方3分の2に位置し,頂上は丸みを帯びる。背鰭後方から尾鰭前方にかけて小隆起が連なる。また肛門直後が隆起する。胸鰭はうちわ状で短く,尾鰭は幅が広く後縁中央が切れ込む。潜水時間はクジラ類中最長で,通常は 30~40分であるが大型雄は1時間をこえることもある。尾鰭を水面に上げて垂直に潜水し,この際にしばしば脱糞する。大型雄は単独で行動し,中型の個体は 15頭前後の群れをよくつくる。おもに深海性のイカ類やタコ類を捕食するが,タラ等の大型底生魚類も捕食する。腸内には竜涎香と呼ばれるろう状物質があり,香料として珍重される。両半球の熱帯から氷縁にかけて分布し,深海域を好む。成熟した大型雄は高緯度の極地方に偏在する。 1988年商業捕鯨禁止まで日本沿岸で捕獲された。インドネシアでは先住民により捕獲されている。

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