改訂新版 世界大百科事典 「馬パラチフス」の意味・わかりやすい解説
馬パラチフス (うまパラチフス)
equine paratyphoid
サルモネラ属のSalmonella abortusequiによってウマとロバに限っておこる病気の総括名。成馬でのパラチフス症,妊馬での流産,子ウマでの関節炎あるいは腱鞘(けんしよう)炎などの急性,慢性の伝染病をいう。ウマの生産地では流産の原因として常在する。自然感染は妊馬の流産後,尿中サルモネラに汚染した敷わらなどからによるものが多いが,種雄馬との交配によっても感染する。流産は通常妊娠7~8ヵ月に突然みられ,後産停滞や子宮炎をおこす。感染雌馬から子ウマに伝播(でんぱ)すると,出生後数日以内に敗血症となる。死亡をまぬがれたものも7~14日後には多発性の関節炎になる。菌の分離,同定を試みる一方で,診断用菌液を用いて,流産母ウマの血清,また感染の疑いのある成馬や関節炎のみられる子ウマからの血清について凝集反応を行って診断する。予防は感染馬の隔離,流産に伴う汚染物の排除などのほか,感染雄馬との交配を避ける。かつて用いられた予防液は効力が十分でなく,現在ではほとんど用いられていない。免疫血清は発生厩舎(きゆうしや)の同居健康馬に対して緊急の予防となり,治療にも有効である。慢性例にはあまり効果はない。
執筆者:本好 茂一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報