生物の雌雄の生殖器官の合着(かけ合わせ)によって,次の世代ができること。交雑ともいうが,交雑は後述の異系交配と同じ意味で用いることが多い。多くの動物では,交配によって子孫を作ることが古くから知られていた。しかし植物では一見行動を伴わないので,一般の植物にも雌雄性があってその交配によって種子ができることに近代まで気づかなかった。ただ,古代バビロニアでナツメヤシが雄株の花粉によって雌株に実を結ぶことが知られていた例もある。品種改良(育種)のために,雌雄の間の交配を人工的に行う操作を人工交配という。人工交配というのは動植物を含めたいい方で,植物で交配のために雄の花粉をめしべにかけ合わせるまでの操作を人工受粉,動物で雄の精子を雌の卵子にかけ合わせる操作を人工授精という。交配には難易があり,品種または系統内,品種間,種間,属間と類縁関係が遠ざかるにつれて交配が困難になるのが通例である。生理的特性や性器の構造によって交配がむずかしくなっている。他殖性植物の中には同一品種内の交配ができない自家不和合性,特定の品種間で交配できない交雑不和合性などを示すことがある。種・属間の雑種はできても生殖不能な場合が多い。交配は同系交配と異系交配に大別される。なお,自殖性植物の自殖は,同一個体内で交配が行われるもので,広い意味では同系交配に属する。
同一品種内または同一系統内で行われる交配で,特性の維持,向上のために行われる。トウモロコシのような他殖性作物は同一品種といっても自殖性作物に比べて遺伝的に不純であるから,これを純粋にするため人工的に自殖または同系交配を行う。動物では子の数が少ししかできないことが多い。そこで,類系交配(血縁よりも類似の特徴だけを指標にした交配),近親交配,系統交配(近親よりやや広い範囲の血縁間の交配)などのくふうがなされている。
異なった品種または系統,種,属間の交配で,両親のもつ遺伝質のうちの良いところを集めて新品種(種)を作る育種上の操作として重要である。種・属間の交配は困難なことが多いが,生物学上たいへんに興味ある課題の一つであり,現在もあらゆる分野の学問を応用して研究がすすめられている。とくに細胞・組織培養技術や遺伝子工学の技術を利用することによって,種・属間交配は広範囲な分野で可能となりつつあり,新しい局面を迎えつつある。種間交配は種間が近縁であるほど交配が容易な例が多く,実用的な農作物・家畜の育種も成功している。タバコの栽培種と野生種,ハクサイとキャベツ,ヨーロッパウシとインドウシ,イノシシとブタなどたくさんの交配成功例がある。属間でも,パンコムギはコムギ属とエギロプス属の自然交配によって生じたといわれ,最近では,コムギとライムギの人工交配によるライコムギが作られた。ライコムギは人類最初の人工属間交配穀物種として有名である。
執筆者:武田 元吉
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
2個体間で受粉あるいは受精を行うこと。交配は、両親の遺伝子型の異同は問題とせずに用いるが、とくに遺伝子型の異なる2個体間の交配は交雑とよばれる。
家畜の交配は、まず育種の目標を確立し、それにふさわしい選抜を行い、その目標にかなった方法で行われる。したがって育種目標に応じて交配の仕方も異なる。遺伝的に遠く、相異なるものの長所をあわせもった雑種をつくりたい場合、すなわち特定形質の付与、あるいは両親のいずれかよりも優れた一代雑種(F1)をつくる雑種強勢を期待したい場合には、属を異にするものどうしの交配である属間交配、または同じ属に入るが種を異にする種間交配を行う。これらの場合、多くは雌雄とも、またはどちらか一方(哺乳(ほにゅう)類では雄、鳥類では雌)が不妊のためF1のみしか得られない。属間交配の実例としては、ウシとアメリカバイソン(アメリカヤギュウ)のF1でダニ熱に強いカタロ、アヒルとバリケンのF1で早熟早肥の土蕃鴨(トウホアンアー)などがある。種間交配では、雌ウマと雄ロバのF1で、強健で耐久力があり粗食、少食で役畜として賞用されているラバがある。
異品種間の交配を品種間交配といい、単に交雑ともいわれる。交雑によってできた子を交雑種または雑種という。この交配は、一方の品種の特定形質の他方への付与、二つ以上の品種のもつ相異なる長所を有する新品種の作出、雑種強勢を期待する場合などに用いられる。例としては、イギリス在来馬とアラブなど東洋種のウマとの交配によってできたサラブレッド、ヒツジのメリノーとイギリス長毛種などとの交雑によってつくられた毛肉兼用種のコリデールがある。また、現在飼っている品種をほかのより望ましい品種に取り替えたいが経済的理由などで一挙にできない場合には、数代重ねて交配しその品種に近づける累進交配を行う。
一方、非常に優れた形質を遺伝的に固定したい場合、とくに血縁関係にある個体どうしの交配である近親交配が行われる。この場合、能力の飛躍的向上はみられないが、遺伝子のホモ化する可能性がもっとも高く、その結果好ましくない潜性遺伝形質もホモ化され表現型に出ることもあるので、潜性遺伝子の摘発にも適した方法である。このように優れた個体が出現し、その形質集団を作出維持したいとき、その個体と同一の系統内での選抜による交配、すなわち系統交配が行われる。必然的にかなりの近親交配を伴うが、この方法によりホモ化され確立された形質集団を近交系という。
[西田恂子]
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