日本大百科全書(ニッポニカ) 「騎士物語」の意味・わかりやすい解説
騎士物語
きしものがたり
Libro de caballerías
16世紀にスペインで全盛を誇った空想冒険小説。恋する遍歴の騎士が主人公で、女性への愛と忠誠を貫き、英雄らしく正義のために悪を懲らし、弱きを助ける物語。騎士物語の起源はフランスであるが、それをスペイン流に咀嚼(そしゃく)、展開している。単なる冒険物語に終わらず、北方文学に顕著な淡い叙情性が融和しており、さらに騎士の恋心は中世スペインの一徹な宗教心の世俗化現象ともみなすことができる。スペイン最初の騎士物語『騎士シファールの書』は14世紀初頭の作品で、教訓的要素が強く、聖書以外に東洋系の物語の要素もみられる。最高作はアーサー王伝説の系譜を引く『アマディス・デ・ガウラ』で、1508年に著者ロドリゲス・デ・モンタルボの名で出版された。ただし14世紀なかばに、すでに本書への言及がみられ、本当の原作者は不明。
[清水憲男]
『H. ThomasSpanish and Portguese Romance of Chivalry (1920, Cambridge)』